精神科医 塩入俊樹氏

 カフェインはコーヒーだけでなく、紅茶、緑茶、ココア、栄養ドリンクやチョコレート、あるいは一部の総合感冒薬や頭痛薬などにも含まれます。その作用には覚醒作用、解熱鎮痛作用、利尿作用(おしっこが出やすくなる)などがあります。その中で皆さんは、覚醒作用、つまり眠気や疲労を軽減し、シャキッとさせて、パフォーマンスを向上させる作用を利用することが多いと思います。実際、カフェインは集中力を向上させ、仕事効率を上げることが分かっています。

 ですが、摂取し過ぎて「カフェイン中毒」になると、落ち着きのなさや緊張感、感覚過敏や興奮、不眠などの精神症状、顔面紅潮、利尿、胃腸系の障害(吐き気、胃痛)などの身体症状が現れます。体格や年齢により異なりますが、成人が中毒になる可能性のある量は米国の精神医学会の基準では1日250ミリグラム以上、カナダの保健省でも1日400ミリグラム以上は摂取しないようにとの勧告があります。一方で、米国成人の1日平均摂取量は280ミリグラムとの報告もあり、潜在的なカフェイン中毒患者が相当数いるものと推定されます。

 一般に、インスタントコーヒー235ミリリットルのカフェイン量は62ミリグラムですから、1日5杯以上で中毒になる可能性、7杯以上は摂取してはいけない、ということです。なお、同量の紅茶には47ミリグラム、緑茶には30~50ミリグラムのカフェインが含まれます。

 一方、長期間続けていた毎日のカフェインの使用を突然中断・減量すると、24時間以内に頭痛や著しい疲労感、眠気、不快気分、易怒性、集中困難、さらに感冒様症状(嘔気(おうき)、嘔吐、筋肉痛)などの離脱症状が出ることがあります。通常、これらの症状は中断の1~2日後にピークを迎え、2~9日程度続きます。また、離脱の生じるカフェイン1日摂取量の設定はなく、1日100ミリグラムでも離脱が生じることがあります。ちなみに、喫煙者ではニコチンによってカフェインの分解が早まり、眠気覚まし効果は低くなります。

 わが国の喫煙率は男性29・0%、女性8・1%ですから、「ニコチン依存症」は決してまれではありません。タバコの葉に含まれるニコチンは、脳にある「報酬系」と呼ばれている神経回路に作用して(2021年7月28日付「依存症の原因」参照)、脳内快楽物質であるドパミンやβ-エンドルフィンなどを放出させ、その結果、多幸感が生まれます。

 なお、ニコチン中毒は非常にまれなのでここでは省略し、耐性(同じ量の使用では効果が薄れてしまうこと)と離脱症状についてお話しします。たばこの耐性は、喫煙を繰り返すと嘔気や目まいがなくなること、そしてその日初めての喫煙時により強い効果を覚えること(寝起きや食後の一服)により裏付けられます。また、日常的喫煙者が急にたばこを中止・減量すると、24時間以内に怒りっぽい、欲求不満、不安、集中困難、食欲増進、落ち着きのなさ、不眠などの離脱症状が起こることがあります。そして多くはこれらの症状の軽減・回避のため再び喫煙するのです。

 喫煙は、がん、呼吸器疾患、脳卒中・心筋梗塞・不整脈などの循環器疾患などの病気とも関係しますので、ぜひ一度、専門家の診察を受けるようにしてください。

(岐阜大学医学部付属病院教授)