乳腺外科医 長尾育子氏

 「マンモグラフィーと超音波検査。乳房検査にはどちらを受けたらよいのですか」。今回は、私が外来で頻繁に聞かれるこの質問がテーマです。

 マンモグラフィーは乳房を薄く伸ばして撮影するエックス線検査です。マンモグラフィーは乳がん死亡率の減少効果が確かにあると科学的に証明された唯一の検査方法で、日本の対策型検診では40歳以上の方を対象に広く行われています。

 マンモグラフィーの大きな特徴として、同じ条件で検査しても受診者によって映し出される乳房の様子に大きな差があることが挙げられます。女性の乳房は乳腺組織と脂肪が混じってできていて、脂肪の混じり方はさまざまで、100人の女性がいればマンモグラフィーに映し出される乳房も100通りあります。

 脂肪の割合が多い乳房のマンモグラフィー=写真左=と、脂肪が少ない乳房のマンモグラフィー=同右=を比べてください。左の脂肪性乳房では、中に描いた白いしこり(白丸、模擬病巣)のコントラストがはっきりして病巣が目立ちます。右は乳房全体が白く映し出される高濃度乳房で、白いしこりとのコントラストがはっきりしないため病巣を探し出すのが難しそうだということが分かると思います。このように、その人の乳房の特徴により病気の見つけやすさが違ってくるのがマンモグラフィーの特徴です。

 一般的には若い人の乳房は高濃度、高齢になるほど脂肪性に変化していき、出産回数が多く授乳期間が長いと脂肪性への変化がスピードアップし、逆に更年期障害などの治療のために女性ホルモン補充療法を行うと変化が遅くなるといわれています。

 さて、自分の乳房はどのような状態なのか気になると思います。岐阜県では市町村が行う乳がん検診の多くは結果通知票に乳房の状態を記載していますので、これまでに検診を受けた人は簡単に確認することができます。脂肪の比率の多い方から、脂肪性、乳腺散在性、不均一高濃度、高濃度の4グループに分けて記載されていますので、自分のマンモグラフィーがどのように読影されたのかを確認してみてください。

 高濃度乳房の人は、病巣が見つかりにくいのではとやや心配になったかもしれませんが、実際には、マンモグラフィーから得られる情報は分かりやすいしこりだけでなく、石灰化、構築の乱れなど多数の要素があり、高濃度乳房でも多くの情報が得られます。また、高濃度乳房の中の病巣をより分かりやすく描出する機械の開発を行い、腕の良い技師が撮影し、読影医2人によるダブルチェックで判定されていますので、たとえ自分が高濃度乳房と分かった場合でも過度に心配はしないでください。

 もう一つの検査方法である超音波検査は高濃度乳房内のしこりを探すことが可能ですので、マンモグラフィーの弱点をカバーする方法として期待されています。しかし、今のところ超音波併用検診の結果を解析したデータからは超音波検査の有効性が証明されておらず、むやみに超音波検査を併用するのは時期尚早とされています。

 今日のまとめです。現在の乳がん検診の基本はマンモグラフィーです。しかし、映し出される乳房の状態には個人差があり、マンモグラフィーですべての乳がんを発見できるわけではありません。高濃度乳房である場合、さらに乳がんリスクが高い(近い血縁に乳がんと診断された人がいるなど)可能性がある場合には、人間ドックなどの任意検診においては積極的に超音波検査を受けることを検討するのも良いでしょう。

(県総合医療センター乳腺外科部長)