循環器内科医 上野勝己氏

 平均寿命が男性81・47歳、女性87・57歳(WHO、2022年版)である日本は、男女ともに世界一の長寿国家となりました。同時に「自立した生活ができる期間」である健康寿命も男性72・6歳、女性75・5歳で世界一なのです。高齢化社会ですが、元気で長生きできる世界一の国でもあるのです。

 しかし新型コロナウイルスの流行によるこの3年間、さまざまな自粛政策が取られましたが、その一番のあおりを受けたのは子どもたちと高齢者だと考えられます。コロナ前はどうだったでしょうか。毎朝、喫茶店に行きモーニングを食べながら友人と歓談するとか、少し元気だと毎日ジムで汗を流したり旅行したりと、一人一人がそれぞれの老後を楽しまれていたと思います。そういった全ての機会が奪われました。

 外出せずずっと家にいることで、どんどん運動不足になっていき筋力が衰えていきます。人との触れ合いも会話も無くなり“うつ”傾向になっていきます。物忘れも悪化します。身体機能も、精神機能も、そして社会性までもが低下していき、いわゆるフレイル(虚弱)となります。要介護、寝たきり状態の一歩手前です。

 コロナパンデミックによってフレイルになる方々がコロナ前の11%から16%へと、1・5倍に増加したと報告されています(国立長寿医療センターと筑波大学のグループによる調査)。また風邪症状程度で入院した高齢者がコロナはすぐに治ったのに、入院のために80%以上がフレイル、あるいはフレイルに近い状態になったと報告されています。

 そしてコロナパンデミックによって今はまだ目に見えないのですが大きなダメージを受けたと考えられる世代があります。それは40代50代の方々です。要介護の大きな原因に運動器の障害があります。ロコモティブシンドロームと呼ばれますが、この運動器障害の一つが変形性膝関節症です。40代から発症し女性に多く、寝たきりや要介護の原因の10%がこの疾患です。初期には60%の人が無症状です。予防には、早期からの運動療法が必要で膝周りの筋力をしっかり付けることです。コロナによる運動不足は将来の要介護の原因となります。フレイルとは、後期高齢者だけの問題ではありません。40~50代の中高年の時期から、しっかりと運動して筋力を付けておくことが大切なのです。

 いったんフレイルになると回復する場合もありますが、なかなか困難です。しかしフレイルの前段階なら自分でトレーニングができるはずです。食事療法(男性一日60グラム以上、女性50グラム以上のタンパク質の摂取)と筋力アップと歩行がポイントです。

 筋力アップには、ラジオ体操やスクワットを始めましょう。現在のコロナは弱毒化して、肺病変を来す方は激減しました。ほとんどの方が、風邪症状で回復しています。もちろん注意は必要ですが必要以上に怖がる必要もないのではないでしょうか。外ではマスクを外してよいことになりました。とにかく外に出て、歩きましょう、感染対策をして友人と会いましょう。

 どんなに望んでもコロナのない世界は来ません。コロナよりもっともっと怖い病気はたくさんあります。例えば現在のコロナであれば、転倒して骨折する方がはるかに怖いのです。一日も早くコロナ前の生活に戻ること、一日一日をしっかり楽しむこと、それがフレイルを防ぎコロナに振り回された生活から抜け出し、せっかく与えられた老後を楽しく過ごしていく解決方法の一つではないかと考えています。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)

【フレイル診断チェックリスト】

・自分の健康状態は普通かそれ以上である

・毎日の生活に満足している

・1日3食きちんと食べている

・半年前に比べても固いものが食べられる

 (さきいか、たくあんなど)

・お茶や汁物などでむせることはない

・6カ月間で2~3キロ以上の体重減少はない

・以前と同じような速度で歩くことができる

・この1年間に転んだことはない

・ウオーキングなど運動を週1回以上している

・周りの人から「いつも同じことを聞く」などの物忘れがあると言われていない

・今日が何月何日か分かる

・たばこを吸わない

・週1回以上は外出している

・普段から家族や友人と付き合いがある

・体調が悪い時、身近に相談できる人がいる

いいえが0   健康です

いいえが1~2 フレイルの手前です

いいえが3以上 フレイルの可能性あり

(フレイル検診質問表から筆者改変)