中畑雅行施設長の話に熱心に聴き入る中高生ら=岐阜新聞本社
スーパーカミオカンデ大改修について話す中畑雅行施設長=同

 世界のニュートリノ研究をリードする東京大宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設の観測装置「スーパーカミオカンデ」。12年ぶりに中の水を抜いて、精度を大きく上げる大改修が行われている。岐阜新聞本社で開かれた第10回サイエンスカフェでは、施設長で東京大宇宙線研究所教授の中畑雅行さん(59)が、これまでの研究成果や改修による新たな観測について分かりやすく紹介。少人数に限定した会ならではの和気あいあいとした雰囲気で、難しい最先端の宇宙研究を楽しみながら学んだ。講演の要旨を紹介する。

 スーパーカミオカンデは、飛騨市神岡町の池ノ山(標高1368メートル)にあります。宇宙から降り注ぎ、ニュートリノを捉える際に邪魔になる宇宙線を減らすため、山頂直下1000メートルに造られました。高さ約42メートル、直径約40メートルで、純水5万トンが入っています。

 ニュートリノは、ごくまれに水の中の陽子や電子を蹴飛ばして、輪っか状の光「チェレンコフ光」を出します。この光をスーパーカミオカンデの壁面に並んだ光電子増倍管で捉えます。1987年、私の指導教員であった小柴昌俊先生は、世界で初めて超新星爆発のニュートリノを前身のカミオカンデで捉え、ノーベル物理学賞を受賞しました。その信号は13秒間に11個の反応でした。最初に目にしたのは実は私だったのですが、あの時の感動は今でも忘れません。

重い星

 超新星爆発は、太陽よりずっと重い星の最後です。

 星は、中心の核融合反応でエネルギーが生まれ、温度と密度が上がるに連れて、水素からヘリウム、順に炭素、酸素、ケイ素ができ、超高温・高密度になる中心は鉄の塊になります。重い星の場合、重力で鉄が押しつぶされ、中性子星かブラックホールになります。鉄がつぶれて星を吹き飛ばすまでが10秒くらい、このときのエネルギーは、太陽が約100億年かけて出し切るエネルギーの300倍で、モノとほとんど反応しないニュートリノがエネルギーの99%を運びさります。中性子星は、太陽くらいの重さで、半径10キロくらいしかありません。例えば富士山を20センチに押し縮めたような密度です。

 宇宙が始まってからどうやって重い元素が作られたかはまだ謎ですが、超新星爆発の際や、二つの中性子星の合体によって鉄より重い元素ができたのではないかと考えられています。われわれの身のまわりの物を作った源だということです。そこで、これらの現象をちゃんと理解したいと思っています。

 しかし歴史上、目で見て観測された超新星爆発の記録は、藤原定家の「明月記」にも3回の記述が残るなど8回で、天の川銀河全体でも30年から50年に1度くらいにすぎません。そこで新たに、宇宙全体にある数千億個の銀河で起きている超新星爆発から届く「超新星背景ニュートリノ」を捉えようと考えました。138億年前に宇宙が始まって数億年後くらいから超新星爆発が宇宙の至る所で起き、ニュートリノは手のひらを1秒間に数千個通り抜けるくらいになっているはずです。実験で捉える反応はあるとき爆発的に起きるわけではなく、ノイズに紛れていますが、水に「ガドリニウム」という物質を溶かすと、ニュートリノが反応したときに出るチェレンコフ光の直後、ほぼ同じ場所にもう1回光が出るという反応が起き、見分けることができます。

注水中

 今回のスーパーカミオカンデ大改修は、ガドリニウムを溶かすための準備です。今年5月31日に着工、12年ぶりにタンクの上のふたを開け、2メートルずつ水を抜いてボートや浮き床で作業しました。ガドリニウムは規制されている物質ではありませんが、タンクの水漏れがないよう、延長6キロの溶接部分に特殊な材料を塗りました。不具合のある数百の光電子増倍管を取り替え、タンクに水を流す配管を太くするなど、改修工事は10月中旬まで行われました。現在、注水作業を行っており、来年か再来年にはガドリニウムを交ぜて超新星背景ニュートリノの観測を目指します。