皮膚科医 清島真理子氏

 「ベーチェット病」という病気をご存じでしょうか? 今回はこの病気についてお話しします。トルコ、イスタンブールのベーチェット教授が1937年に初めて報告した病気なのでこの病名で呼ばれます。日本、中国、韓国や中近東、地中海沿岸に多く、「シルクロード病」と呼ばれることもあります。日本国内の患者数は約2万人といわれ、30代後半に最も多く発症します。

 症状は患者さんによってさまざまです。主な症状は「口腔(こうくう)粘膜の再発性アフタ性潰瘍」「外陰部の潰瘍」「皮膚症状」「目の症状」の四つです。その他に関節炎や精巣上体炎(副こう丸炎)、消化器病変、血管病変、中枢神経病変も起こることがあります。これらの症状が組み合わせで起こります。そして症状が出たり治まったりを何回も繰り返します。

 ベーチェット病で最初に起こり、しかも患者さんの95%以上にみられるのが口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍です。アフタとは口の中にできる数ミリの円形か楕円(だえん)形の潰瘍のことです。口の中、舌、喉の奥、口唇(こうしん)に痛みを伴ってアフタができます。一つ一つは1~2週間でよくなりますが、何カ所か同時にできたり、繰り返してできたりすることもあります。よく口唇のヘルペスと間違えられます。

 「皮膚症状」の中で最も多いのは結節性紅斑という症状です。すねに赤いしこりができて、触ると痛いです。何カ所か同時にできることもあります。

 治療は全ての症状に一つの薬で対応できるものではなく、個々の患者さんの症状、重症度、経過によって異なります。この病気は症状が繰り返し起こるものの、命に関わるような重症な患者さんはまれです。治療の進歩によって症状を抑えたり、なるべく再発を防いだりすることができるようになってきました。後遺症は減ってきていますが、目の症状は繰り返すと視力低下、失明に至ることもあるので注意が必要です。

 最近では症状によってはTNFα阻害薬(レミケード、ヒュミラ)やアプレミラスト(オテズラ)などの新しい治療を受けることができるようになりました。一定の重症度の患者さんでは申請すると難病認定が受けられ、医療費が助成されることがあるので担当の先生にご相談ください。

 原因はまだよく分かっていませんが、この病気になりやすい遺伝的な素因が分かってきました。そこに虫歯菌などの細菌やウイルス感染や環境汚染などの要因が加わって、免疫の異常が起き発症する炎症性疾患と考えられています。従って歯磨きや口腔内のうがいなどで口腔内の衛生に注意し、虫歯や歯周炎があれば早めに治療しておくとよいでしょう。

 いくつかの症状があるとどの科を受診するとよいか迷いますが、皮膚や口腔粘膜の症状が主であれば皮膚科専門医にご相談ください。

(岐阜大学名誉教授、朝日大学病院皮膚科教授)