「情報を分析し、考えを深め、視野を広げてほしい」と語る木下康校長=岐阜市安食、方県小学校
木下康校長が紹介した過去の写真や新聞などに興味を示す5、6年生=同

木下校長特別授業「情報から考え、視野広げて」

 岐阜市安食の方県小学校(児童89人)で1月下旬、今春定年退職する木下康校長(60)が教員最後の特別授業を行った。5、6年生29人を対象に、校長自らが調べた学校の歴史や社会の出来事などを紹介。児童が奮闘したかべ新聞づくりにも触れ、「先人の思いが重なり築かれた今を大切に未来につなげてほしい」と呼び掛けた。

 方県小は1873(明治6)年に地域住民らの有志によって設立された「謹申(きんしん)義校」としてスタートした。「謹申」は孟子(もうし)の言葉で、「正しい行いをしっかり身に付け、正しい考えを持つ」の意味があり、「しっかり勉強、親孝行し、お年寄りの話を素直に聞く」の願いも込めたもの。木下校長はこれまでも、「謹申」を尊ぶ学校の歩みや先人の思いを全校集会などで児童らに伝えてきた。

 6年生は、校長先生の話をもとに学校の沿革をさらに詳しく調べてオリジナルの新聞を発行。2017年度の岐阜新聞主催かべ新聞コンクールにも出品し入選。4、5年生も新聞作りに励んで出品し入選、身近な伊自良川についてまとめた5年生の「ふるさと方県新聞」は入賞にも輝いた。

 新聞は班ごとに制作した。同校には抜けた乳歯を納める「歯の塔」があり、多くの班が、歯と口の健康づくりに努め、歯の優良校に何度も選ばれていることを記した。

 新聞作りのテーマは身近なところにたくさんあるが、▽何を発信するのか(企画力)▽調べたことが正しいのかどうかを確かめる(ものごとを見る力)▽調べたことをどのようにまとめ、どんな工夫をしたら相手に分かりやすく伝わるかを考える(想像力、表現力)-など、多様な力が求められると木下校長。

 多くの班が取り上げた「歯」を取り上げ、「歯の健康づくりに力を入れ始めたのはいつごろで、それはなぜか」「誰がどんな目的で『歯の塔』を作ったのか」と問い掛けた。そして、歯の健康教育に力を入れ始めたのは、戦後の経済成長とともに虫歯の子が多くなったからで、子どもたちの成長を願う地域の人たちの寄付で歯の塔が建設されたことを紹介。さらに、「勉強とは自らの目と耳と心で感じ、調べたことをどうして、なぜ、と考えること。調べたことを深く考えることで答えは導かれる」と語った。

 また、セピア色になった1枚の写真を子どもたちに披露。1970年代後半まで校庭の真ん中にあったムクノキの大木で、当時は木の周りで遊んだり、合唱したりしていたという。「その木は今はないが、方県小児童らで組織する『"むくの木"合唱団』の名前に残っていて、方県の文化としての歴史を刻んでいる」と話した。

 木下校長最後の授業に、「知らなかった過去を知ることができて楽しかった」と児童たち。「過去を知ることができるのは、当時の資料や写真が残っているから。伝えてくれる人がいるから」と感謝し、「私たちが作った新聞もふるさとの歴史の資料になったらうれしい」「今後も未来につなげる新聞を作りたい」と意欲も示した。

 木下校長は「知り得た情報を分析し、考えを深め、視野を広げてほしい。それが生きる力になる。5年後の学校創立150周年も日々の積み重ねによるもの。毎日を大切に過ごしてください」と児童らに将来を託した。