放射線治療医 田中修氏

 今日は防災の日です。1923年9月1日に発生した関東大震災に由来して制定されました。現在、コロナウイルス感染症が未曽有のパンデミックを来しています。まだすべての人にワクチン接種が済んでいないため、行動制限・マスクなどは継続しましょう。

 今回は、がん患者さんなどの長期療養に伴う就業支援について取り上げたいと思います。厚生労働省のホームページにこのように記載されています。「近年、労働環境の変化などにより脳・心臓疾患や精神疾患などを抱える従業員が増加していることや、医療技術の進歩によりこれまで予後不良とされてきた疾患の生存率が向上していることなどを背景に、治療をしながら仕事を続けることを希望する従業員のニーズが高くなってきています。特に近年、がん患者の方の就業継続の問題がクローズアップされています。しかしながら疾患を抱える従業員に働く意欲や能力があっても、治療と仕事の両立を支援する環境が十分に整っておらず、就業を継続したり、休職後に復職することが困難な状況にあります」

 がん治療に関してよく見られるのは「治療に専念したいために仕事を辞めてきました」と辞職してしまう方や、働き盛りの場合は逆に「早く会社に復帰したい」というジレンマを抱える方などで、仕事と家族を養うことの間でいろいろな社会的問題が出てきます。また相談する相手がいない、病院で療養中のためハローワークに出向くことが難しい、などの場合があります。

 あまり知られていませんが、岐阜市には出張ハローワークという制度があります。ハローワークの業務が病院にまで出張して来て、患者が相談できるシステムです。現在は、岐阜大学病院、岐阜市民病院、岐阜県総合医療センター、そして朝日大学病院があります。月に何回か、病院に専門相談員が来て無料相談に乗ります。この場合、ハローワークに問い合わせれば予約を取ることもできます。

 もう一つ、がんで社会的問題になるのが「がん難民」です。手術や抗がん剤など「標準治療」が終わった後も、何か治療のためにできることがないかを探し続けてしまう患者さんです。前述の行政支援のような社会資源を知らない場合も多く、自分で情報を探してインターネットなどの「がんが消えた」といった言葉に惑わされ、いかがわしいクリニックを受診してしまうことがあります。一部の自由診療クリニックではこうした患者さんを対象に科学的根拠に乏しい免疫細胞療法などを行い、数百万円費やす患者さんもいます。

 しかし、これは患者さんが悪いのではなく、そのようなクリニックの医師のモラルの問題です。「治る」という言葉を見ると、どうしても飛び付いてしまう心理も理解できます(「治る」と記載すると違法になるため「消えた」「脱出」という表現が多用されます)。

 いろいろ試してみたいものがありましたら、まずは主治医と相談してください。今は、セカンドオピニオンといって別の医師の意見を聞く機会、権利もあります。主治医や行政のいろいろな意見を聞いて、自分に合った適切な治療方法を選びましょう。

(朝日大学病院放射線治療科准教授)