(写真1)転移した腰骨。がんによって白い骨が壊されている
(写真2)放射線治療によってがんが死に骨が再生してきている

放射線治療医 田中修氏

 162年前の今日、1859年11月24日は、ダーウィンによって進化論について書かれた「種の起源」が出版された日です。それにちなんで、放射線治療の「進化」の一つである「ピンポイント照射」について説明したいと思います。

 専門用語では体幹部定位放射線治療といいます(インターネットで検索できます)。これまでは肺がん、肝臓がんが保険適用でしたが、2020年6月から前立腺がん、膵(すい)がん、脊椎転移も保険適用になりました。18年2月12日付の「教えてホームドクター」では肺がんと肝臓がんについて書きました。今回はそれ以外の体幹部定位放射線治療について説明しようと思います。

 まずはピンポイント照射の利点ですが、5日程度と短期間で通院治療が終わることが一番のメリットと考えられています。また外科手術と同程度の効果があり、肺がんや肝臓がんにおいてはどれくらいの放射線治療をすれば根治できるかがだいぶ分かってきました。

 前立腺がんも膵がんも、日本ではまだ始まったばかりですが海外からの臨床試験の結果から、これまでの通常照射(毎日少しずつ照射する、通院日数約30回)と同程度の効果が得られているとされています。しかしながらいずれも早期の発見ではないと治療適応にならないことが多く、また膵臓や腎臓の周囲には小腸などの放射線に弱い臓器もあるため、実際、体幹部定位放射線治療が選択肢に挙がることは少ないのが現状です。

 一方、脊椎転移に対しては適応となる患者数が多いこともあり、国内においても体幹部定位放射線治療は徐々に使われるようになってきました。転移した部位にもよりますが、体幹部定位放射線治療を行うことで、根治が目指せるようになりました。

 がん治療の考え方で「孤立転移」という言葉があります。この孤立転移は原発巣(例えば肺がん)が根治していて、脊椎転移(どこか他の場所)だけが体の中に存在しているという状態です。この場合、転移した脊椎に根治的放射線治療を行うことで、トータルでがんを治癒する可能性があるということが広まってきました。

 例えばCT写真(写真1)にあるように、腰骨(白い部分)には近くに脊髄があります。そのため、脊髄にできるだけ放射線が当たらないように、いろいろな方向からピンポイント照射することが可能になりました。その結果、転移も治癒できるようになってきているのが、(写真2)で示した最近の高精度放射線治療です。自分のがんが転移をしている場合、医師にこのような放射線治療ができないか確認してみてもよいでしょう。

(朝日大学病院放射線治療科准教授)