精神科医 塩入俊樹氏

 依存症は、回復が可能な病気です。私たちは「ストレス発散」「苦手な人付き合いを円滑にするため」「不眠の軽減」などさまざまな理由で、アルコールなどの嗜好(しこう)品、あるいはギャンブルやゲームを利用します。しかし中には、それらを継続使用すると心(脳)や体の機能が変化し、やめたくてもやめられない人が出てきます(「依存症③~⑤」依存症の原因、耐性・離脱症状参照)。このような状態の方から急に依存対象物(アルコールやギャンブルなど)を奪ったらどうなるでしょうか。これからの3回は依存症の治療や援助についてお話しします。実際に行われている治療法には、心理療法と薬物療法があります。前者が主体とされ、後者は補助的役割を担います。今回は心理療法について紹介します。

 まず「動機付け面接」です。飲酒、薬物使用、ギャンブル、ゲームなどの習慣化した行動を変えるために重要な要素は何なのでしょうか。答えは「モチベーション(動機)」です。つまり、患者さんの「(今の現状を)変えてみようかな」「変わりたい」という気持ちを、支援者・治療者側がうまく引き出すことが重要です。そのためにはまず、患者さんとの良好で親密な信頼関係を築くことです。良好なパートナーシップが成立した上で、受容や思いやり、是認や要約といった心理面接の手法を用いて禁酒に対する動機付けを行うのです。

 もちろん、誰しも自分を変えようと思い、実際に新しい行動を起こそうとする時には、とても大きな勇気が要ります。一度勇気をもって変えようと行動しても、患者さんは「変わりたい」、そして「変わりたくない」という、相反する二つの気持ちの間を行ったり来たりします。この揺れ動く気持ちに寄り添い、共に悩み、苦しみながらも少しでも前に進んでいくために確固たる信頼関係が必要なのです。

 また、「ブリーフ・インターベンション」と呼ばれる、対象者の特定の行動(例…飲酒、ギャンブルなど)に変化をもたらすことを目的とした短時間のカウンセリングもよく用いられます。例えばアルコール依存症の場合、断酒ではなく、飲酒量の減量を目標にして、アルコールの有害な使用を低減するものです。

 依存症は再発しやすい病気です。治療における最大の難関は、断酒・断薬・断ゲームの状態の継続です。そこで「リラプス・プリベンション(再発防止)」という方法では、リラプス(再飲酒、再使用)に至りやすい「ハイリスク状況」を同定し、そうした状況への対処を学びます。また、「スリップ(一定期間止めていた人が再使用してしまうこと)」は当然頻繁に生じるものであり、それを想定内とし、新たに対処法の学習を再検証するといった特徴もあります。

 その他、依存対象の物質や行動に対する考え方を変えていく認知行動療法やマインドフルネス、ソーシャルスキルトレーニング、さらには家族向けプログラム(家族療法やコミュニティー強化と家族訓練)もあります。もちろん、断酒会などの自助グループへの参加も有効です。一人で悩まず、まずは精神保健福祉センターや保健所に問い合わせてください。

(岐阜大学医学部付属病院教授)