泌尿器科医 三輪好生氏

 中高年男性に見られる尿トラブルの原因の中で最も多いのが前立腺肥大症です。加齢に伴い前立腺が大きくなり外から尿道を圧迫すると尿の勢いが悪くなり、排尿に時間がかかるようになります。ある日突然尿が全く出せなくなり下腹部の痛みで病院へ行くことがあります。

 前立腺肥大症の症状を和らげるためにはまず内服薬で治療を行います。前立腺の体積が50ミリリットルを超えて内服薬の効果が不十分な患者さんには手術をお勧めします。内視鏡下に電気メスを用いて尿道の内側から肥大した前立腺を切除する経尿道前立腺切除術(TUR-P)が以前は一般的でしたが、80ミリリットルを超えるようだと手術時間が長くなり出血も多くなってしまいます。このような大きな前立腺に対して最近ではレーザーを用いて肥大した部分の前立腺を核出する手術(HoLEP)や蒸散する手術(PVP)が行われるようになりました。

 一方で、超高齢者や心臓が弱いなどの理由で全身麻酔や長時間の手術に耐えられないために手術が受けられず、カテーテルを使って尿を出しているような患者さんも多くいます。最近ではそのような患者さんに対しても行えるような体への負担が軽い内視鏡手術が登場しました。

 その一つは経尿道的前立腺吊(つ)り上げ術というものです。内視鏡を用いて尿道から前立腺の中にインプラントを埋め込み、狭くなっていた尿道を広げることで排尿困難を改善させる手術です。手術時間が短く軽い麻酔で行うことができ、血を固まりにくくする薬を飲んでいる患者さんでも受けることができます。そしてもう一つ最近登場した手術が経尿道的水蒸気治療です。内視鏡を使用して前立腺に針を刺し内側から103度の水蒸気を噴霧し、前立腺組織を約70度まで上昇させ組織を壊死(えし)させることで前立腺によって狭くなっていた尿道を広げます。こちらも体への負担が少なく短時間で行うことができるため、これまで手術を諦めていた患者さんに対して期待が持てる治療法といえます。

 前立腺肥大症は直接命に関わる病気ではないので、多少つらい症状があっても我慢して過ごすことはできますが、多量の残尿がある状態を気付かないまま放置すると腎臓に負担がかかって腎機能を悪化させたり、重い尿路感染症を引き起こしたりする原因となります。長期間放置していると膀胱(ぼうこう)の筋力も衰えてしまうため、前立腺肥大症の手術を受けても尿をうまく出すことができず、結局尿を出すためにカテーテルが必要になる場合もあります。また、前立腺がんが原因の場合もあるので、最近尿の出が悪くなってきたなと感じたら、一度かかりつけの医師に相談して前立腺がんのスクリーニングのための採血(前立腺特異抗原、PSA)とともに腹部超音波で前立腺の大きさと残尿の有無を調べてもらうことをお勧めします。

(岐阜赤十字病院泌尿器科部長、ウロギネセンター長)