消化器内科医 加藤則廣氏

 「医食同源」とは、日頃からバランスの良い食事を取れば病気の予防や治療につながるという言葉です。体に良いものを食べれば薬は必要としないという中国漢方の薬食同源という言葉から、1970年代に日本でつくられた造語です。

 食事には五大栄養素と呼ばれる炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミンやミネラルがあります。ミネラルは多量ミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン)と微量ミネラル(鉄、亜鉛、マンガン、銅、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン、コバルト)に大別されます。

 微量ミネラルは必須微量元素とも呼ばれ生命活動に不可欠ですが、通常の食事をしていれば欠乏することはほとんどありません。厚生労働省は食事摂取基準の対象として必須微量元素の適切な摂取量を設定しています。医療機関で処方される経腸栄養剤や中心静脈栄養の点滴の成分にも必要量の必須微量元素が含まれています。

 亜鉛は、十二指腸と上部小腸である空腸から吸収されて、体内で多くの酵素やホルモンの合成、免疫反応の調整、タンパク質やDNAの合成などに関与しています。しかし何らかの要因=表1=によって欠乏状態になると臨床的にさまざまな症状が出現します。今回は亜鉛欠乏症を取り上げます。

 日本臨床栄養学会は2018年に亜鉛欠乏症の診療指針をまとめています。主な症状は、成人では食欲不振や口内炎、味覚異常、舌痛などの他に軽度の下痢などの消化器系の症状が見られます。また皮膚症状として皮膚炎や傷が治りにくくなる創傷治癒の遅延を来します。そのため寝たきりの高齢者では難治性の褥瘡(じょくそう)の成因になります。その他に性腺機能不全、易感染性、骨粗しょう症の成因にもなります。さらに中枢神経障害としてアルツハイマー様の記憶障害やパーキンソン症候群との関連性も指摘されています。

 一方、乳幼児期の亜鉛欠乏症は治り難いおむつかぶれの症状などが見られる腸性肢端皮膚炎を来します。しかし小児期になると皮膚症状は少なく低身長などの発育不全や精神症状を呈します。こうした腸性肢端皮膚炎はまれですが遺伝的にも発病します。また中高校生のスポーツ選手では亜鉛欠乏による貧血を来す報告も見られます。

 成人で亜鉛が欠乏する疾患には慢性肝炎や肝硬変、糖尿病、潰瘍性大腸炎やクローン病の炎症性腸疾患、人工透析治療を受けている慢性腎不全があります。また長期に内服している薬剤も亜鉛欠乏を来す可能性があることが知られています=表2=。

 診断には血液検査で血清亜鉛値の測定を行います。正常範囲内であっても低値であれば潜在性亜鉛欠乏症として治療開始の対象となります。食事療法はカキやレバー、牛肉などの亜鉛を多く含む食材を取ることが大切です。しかし亜鉛欠乏症は食事療法だけでは改善しないことが多く、医療機関で酢酸亜鉛などの亜鉛製剤が処方されます。なお最近は亜鉛のサプリメントもありますが過剰摂取には注意が必要です。

(長良医療センター消化器内科部長)