毎年5、6月になると岐阜県海津市は全国でインターネット検索される。その理由は「輪中」。小学校でタブレット端末の導入が進み、5年生が社会科の授業で低地の暮らしを学ぶ際、一人一人が調べるようになったからだ。県の最南端に位置し、木曽三川が合流する海津市は、治水工事によって県内有数の穀倉地帯となっただけでなく、海津と南濃、平田の3地域にそれぞれ特色が生まれ、レジャーを楽しみに県内外から多くの人が訪れている。市の魅力を輝かせる新たな取り組みを追った。
東は愛知県、南は三重県に接する海津市。海抜ゼロメートル地帯の印象が強いが、西部の南濃町には養老山地が連なる。中腹には濃尾平野を一望できる月見の森があり、眼下には揖斐川が流れる。夜も絶景で、日本夜景遺産と日本百名月に認定されている。
麓には明治の治水工事の遺構が残る。羽根谷の砂防堰堤(えんてい)だ。現在は羽根谷だんだん公園として整備されている。木曽三川分流工事で知られるオランダ人技師ヨハネス・デ・レーケは山にも目を向け、国直轄事業として砂防工事を行った。上流の第1堰堤は、石垣の技術を生かして巨大な割石が積み上げられ、国登録有形文化財にも指定されている。
そんな歴史ある場所に来月26日、キャンプ場がオープンする。アウトドアブームを受けて、名古屋圏に近い立地を生かして市が整備した。東海地方のヒルクライムの聖地ともいわれる二ノ瀬峠にも近く、温泉施設「南濃温泉水晶の湯」や道の駅「月見の里南濃」など、一帯の観光資源の核を担う。さらに2023年度はオートキャンプサイトも整備する計画だ。
海抜ゼロメートル地帯の海津町の人気レジャーは釣りだ。大型河川に挟まれた輪中地には大江川、中江川が流れており、池のように川幅が広がった場所が点在する。バス釣りの人気スポットとして、平日でも県内外から多くの釣り人が訪れる。周辺環境への関心を持ってもらおうと、市などは20年から釣り人による川の清掃活動「アングラー河川清掃」を開始。数百人が集う一大イベントとして定着した。
大江川のほとりには、市歴史民俗資料館が建つ。江戸時代に海津町一帯を治めた高須藩の城館表御殿を復元した豪華な外観で、治水の歴史や輪中の暮らしを紹介する。1993年の開館から30年が経ち、2023年度からリニューアル工事に入る。常設展示を見直し、25年度のオープンを目指す。横川真澄市長は「デジタルとアナログを融合し、海津の成り立ちを体感できる展示にしたい」と意気込む。
県内の観光地点別の入り込み客数を見ると、実は海津市から2カ所がトップ10に入っている。5位の国営木曽三川公園センター、そして6位は「おちょぼさん」の愛称で親しまれる平田町の千代保稲荷神社だ。
参道の東側では、菜の花畑と、ポップなイラストのドラム缶が訪れた人を迎える。仕掛けたのは町内の住民グループ「ey.connect」。昨年夏にヒマワリを植えてドラム缶を設置したところ、交流サイト(SNS)で人気を集めた。イラストを描いた中心メンバーの角田悦子さんは「地域を盛り上げたい気持ちもあるが、まずはやって楽しいと思えることができれば」と語る。
西側を見ると国重要文化財「早川家住宅」が建つ。早川家は室町末期からの豪農。濃尾震災後、貴族院議員を務めた17代当主早川周造が再建した。長らく公開していなかったが、建物の維持に向けた活用のため昨年5月に一般公開を開始。さらに5月からは公開日を土日に拡大する。20代当主の早川正彦さん=名古屋市=は「歴史を伝える貴重な古文書なども紹介していきたい」と見据える。
木曽三川は、分流されながらも同じ海へと注ぐ。そのさまは、3町それぞれの魅力を高めながら、市全体のにぎわいを生もうとしている海津の今と重なって見えた。








