コロナ病棟で誕生日の飾り付けをする看護師ら=2020年2月、岐阜市長良、長良医療センター(同センター提供)

 「HAPPY BIRTHDAY」の文字で病室の入口を飾る看護師たち。異国の地で誕生日を迎えたオーストラリア人の高齢男性は、差し入れのチーズバーガーにむしゃぶりついた。

 男性はクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号から国立病院機構長良医療センターが受け入れた新型コロナウイルス感染症患者で、妻と共に入院していた。

 「クルーズ船に見捨てられた」と不満を漏らしたり、退院後の差別や好奇の目を恐れる人もいたという。「少しでも気分転換をしてもらいたかった」と副看護師長の植松あゆみ。不安な患者を励ます思いがあった。

 快方に向かっても、PCR検査はなかなか陰性に転じない患者も多く、ささやかな誕生祝いや折り紙のひな飾りが、長引く入院生活に彩りを添えた。

 夫妻の病状を知るため、大使館関係者が訪ねてきた。同行した外国人医師は「治療法は?」「ゾーニングは?」と一通り質問した後、2人にこう説明したという。「ここの病院はきれいで、しっかりした医療を提供している。安心して」

 夫妻が記した礼状には、「You are all heroes!」(あなたたちは皆、ヒーローです)」とあった。英語が堪能で、接する機会の多かった医師の小松輝也は「それは、うれしかったですよ。特別な状況だったから」と頬を緩める。全員が無事退院したのは、2020年3月18日。受け入れからちょうど1カ月がたっていた。

 あれから3年。長良医療センターのコロナ病棟は、市中感染の拡大で一時は48床まで増え、今月21日までに計1443人が入院した。「フェーズによって違う病気を診ているようだった」と小松が振り返るように、新型コロナは変異を繰り返し、感染性が高まる一方で若い世代の重症化リスクは大幅に下がった。

 5月には季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行し、マスク着用も個人の判断になる。呼吸器内科医の加藤達雄は、「若い人や子ども、元気な人にとって病原性は下がっている」と理解を示す一方で、「介護が要る高齢者や入院が必要な基礎疾患のある人への脅威は変わっていない」と指摘する。

 昨年6月以降の第7、8波では、従来のウイルス性肺炎に代わり、新型コロナ感染で体調を崩した後に誤嚥(ごえん)性肺炎で亡くなる高齢者が相次いだ。県内の第7波以降の死者数は700人を超えており、実に全期間の3分の2以上に達する。

 「過度に恐れる必要はないが、高齢者施設や病院のクラスターは逆に増える恐れもある。一定の対象に感染対策は必要」と訴える。

 院内の感染管理を担う副看護師長の安江亜由美は「病院としての感染対策は変わらないし、変えれない」と表情を引き締める。

 家庭に向けては「子どもの頃に『帰ったらうがいして手を洗いなさい』とか『目をこすらない』『床に座らない』と言われたじゃないですか。あれって感染対策。理にかなっているんです」と古来の作法と合わせた対策の実践を勧める。

 20年7月から院長を務める松久卓(65)は「クルーズ船の頃に比べれば、ウイルスに対する知識も得たし、ワクチンや薬という対抗する手段も手に入れた。ウィズコロナの新しい世界が見えつつあるんじゃないかな」と先を見据えた。(敬称略)