4月にデビューした深沢杏花騎手。馬場改修で新装オープンした笠松競馬場で「一番星」を飾った

 「暑い!、熱い!」。真夏の太陽が輝き、猛暑日となった。馬場改修で新装オープンした笠松競馬場では熱い戦いが繰り広げられ、初日からデビュー1、2年の若手や半年ぶり復帰のジョッキーが勝利を飾った。

 走路の路盤改修、パドックへの通路の舗装、ラチの交換などが行われ、真新しくなった笠松コース。ファンには画面越しにしかお披露目できないが、6月19日以来、52日ぶりにレースが開催された。

 初日第1Rは電撃の800メートル戦。笠松では20年ぶりの女性ジョッキーとして今春デビューした深沢杏花騎手(18)。3番人気のアイカリトマナカ(牝4歳、加藤幸保厩舎)に騎乗し、スタートダッシュを決めて先頭に立つとゴールへ一直線。リニューアルされた馬場でのレースのオープニングを飾り、きらめく「一番星」に輝いた。

 2着馬に9馬身差の圧勝劇。負担重量4キロ減を生かした騎乗で力強く駆け抜け、48秒2の好タイムはあっぱれ。4日目には自厩舎の5番人気・カンノンリオ(牝6歳、湯前良人厩舎)で開催2勝目を飾った。リニューアル後のコースは内めが軽い。路盤改修で競走馬の脚抜きも軽やかでタイムは速い。当面、これまで以上にインへと切れ込んだ逃げ馬に有利な馬場傾向になりそうだ。

 お盆開催のくろゆりシリーズ。例年なら家族連れや若者グループも来場してにぎわうが、今夏は新型コロナ禍で無観客レースになった。それでも場内には競馬関係者やカメラマンの姿がちらほら。取材規制が厳しくなって、装鞍所エリアには入れず、レース後のジョッキーらの話は聞きづらい状況。それでも久しぶりとなった笠松場内での観戦。内馬場にあるパドックへゆっくりと向かう各馬の姿は優雅だし、レースでの先陣争いや3、4コーナーから直線での力勝負は見応え十分だ。

 名鉄電車が往来する木曽川沿い。コース内には田園風景が広がり、のどかな雰囲気は相変わらず。かつてはオグリキャップら中央馬を圧倒する数々の名馬を育て上げ、「不思議の国」とも呼ばれた笠松ワンダーランド。無人のスタンドや飲食店街は、閉鎖されたテーマパーク内にいるみたいで、昭和の時代から時間が止まっているかのような殺伐とした雰囲気だ。コース改修に続いて、老朽化したスタンドの耐震化や改築、放馬事故防止のための厩舎集約化なども引き続き進めていただきたい。

2年目の東川慎騎手。初日メインレースで勝利を挙げるなど成長した姿を見せている

 ■東川慎騎手は初日メイン制し「ブレーク」の予感

 デビュー2年目の東川慎騎手(19)には「ブレーク」の予感。父・公則さんが騎手から調教師に転身し、慎騎手には一人前のジョッキーへの成長が期待されている。初日第2R、1番人気のウインシェフィン(牝4歳)に騎乗し2番手から差し切り。父の厩舎の期待馬で力強い勝利となった。

 最終11Rのメイン「走路改修記念ささゆり賞」では、4番人気のナオアンドユリ(牝6歳、後藤正義厩舎)でも豪快に差し切り勝ち。ゴール前の手綱さばきでは、昨年リーディングの筒井勇介騎手に競り勝ち、自信をつけたことだろう。2日目6Rでは7番人気スーサンブルース(牡7歳、後藤佑耶厩舎)を勝利に導いた。大外一気にまくる競馬が得意のようで、応援する者を痛快な気分にさせてくれる。

 慎騎手、13日には園田で行われたヤングジョッキーズシリーズ(YJS)にも参戦。1年目の昨年は、けがで出場を断念し悔しい思いをしただけに、「園田は初めてですが、思い切った騎乗でファイナルラウンドに進出できるよう頑張ります」と闘志。西日本地区の地方、JRA若手騎手と腕を競い合った。

 2戦とも11番人気で、騎乗馬に恵まれなかったが健闘した。初戦は中団から鋭く迫って3着に食い込んだ。2戦目は最後方から伸びず、12着に終わったが、トータル16ポイントで、西日本・地方騎手の総合3位につけた。残りは11月4日・笠松ラウンドで2戦に騎乗予定で、ファイナルラウンド(12月24日・園田、26日・阪神)への進出者が決定する。深沢騎手は佐賀(9月8日)、笠松で2戦ずつ騎乗する。

けがから半年ぶりに復帰した松本剛志騎手は、初日に復活星を挙げた(笠松競馬提供)

 ■半年ぶり復帰の松本剛志騎手は復活星

 笠松初日第3Rでは、落馬負傷による長期療養から半年ぶりに復帰した松本剛志騎手(41)が、元気な姿を見せて復活の勝利を飾ってくれた。騎乗馬ネオホップベビー(牝4歳、山際孝幸厩舎)は5番人気だったが、鮮やかに逃げ切ってみせた。期間限定騎乗ではおなじみだったが、昨年4月、兵庫競馬から騎乗機会が多い笠松に完全移籍。療養中はウオーキングやバランスボールなどでリハビリに励んだそうで、復帰3戦目でのうれしい勝利となった。今後は騎乗数も増えそうで、どんどん勝ち星を伸ばしてほしい。

 ■少数精鋭で頑張る笠松のジョッキー

 全国の地方競馬では、ファンの入場が岩手競馬、ばんえい帯広のほか、浦和競馬(一部)で可能になった。13日に盛岡で行われたのはJRAとの交流重賞・クラスターカップ(GⅢ)。7年前、ラブミーチャンのラストランとなったレースで、戸崎圭太騎手の手綱で制覇。今年はマテラスカイが優勝したが、ゴール前では、ファンの歓声に人馬が背中を押されたかのような鮮やかな差し切り。騎乗した武豊騎手も、久しぶりのファンの熱気に興奮気味だった。
 
 笠松の馬場は新しくなったが、電話・インターネット投票でしか競馬を楽しめない現状。馬場改修よりも関心が高いのは、笠松所属ジョッキーが17人から14人に減ったことか。NAR(地方競馬全国協会)の騎手免許が更新されず、「引退」扱いになった佐藤友則さん、山下雅之さん、島崎和也さん。3人が「元笠松ジョッキー」となって場内から消えてしまったのは本当に残念だし、寂しいことだ。無観客レースが続いており、その違和感はあまり表に出てこないが、笠松競馬場に長年通い続けてきたオールドファンたちが場内にいたら、どんな反応を示していただろうか...。

 少数精鋭となって頑張る笠松のジョッキーたち。かつては35人前後いたこともあって、この時代は1日の騎乗数は7レースほどで上限があった。乗り役が減った最近では、1日に10レース以上こなすジョッキーもいる。炎天下、誘導馬は健康面を考慮して第6Rか7Rからの登場となっている(前半は塚本幸典さんが誘導)。熱中症のリスクとともに、ジョッキーには騎乗の過密化で疲労がたまる。落馬事故などが起きなければいいが。

 競馬場でのライブ観戦は東海地区ではまだ先になりそうだが、年内には再開できるといい。土日開催のJRAと違って、平日開催の笠松競馬。お盆や年末は盛況になるが、普段の入場者は800人前後で一般スタンドはガラガラ。プロ野球やJリーグ、浦和競馬のように人数制限を設ける必要もないだろう。ファンの声援と拍手に応えて、ゴール前を勝利で駆け抜ける地元馬の活躍が待ち遠しい。