笠松に移籍して3年目の水野翔騎手。南関東遠征では20勝を挙げた

 「若いって、素晴らしい」。水野翔騎手(23)が期間限定騎乗の南関東遠征で20勝を達成。17日には第4Rまでに3勝、2着1回と大暴れ。現地の競馬関係者やネット越しのファンの熱視線を浴びた。19日で期間限定騎乗は終わったが、無限の可能性を秘め、これからもワールドワイドな舞台で騎乗。この夏は地元・笠松に戻って、名古屋などでもアッと驚かせる好騎乗を見せてほしい。

 笠松の競走馬では、3歳牝馬ニュータウンガールが東海2冠馬になったが、来年の東海ダービーを目指す2歳馬の新馬戦もスタートした。6月5日には笠松競馬場で800メートル戦2レースが行われ、若駒たちのフレッシュな戦いが繰り広げられた。

 成長途上で馬体などの調整が難しい2歳馬。3年前の新馬戦では、2頭が出走を取り消して「3頭立て」レースが相次いだ笠松競馬。ワイドや3連単などの発売が中止となる珍事になった。3頭立ては昨年もあったが、今年は何とか出走馬を確保して実施され、厩舎の期待馬が懸命に駆け抜けている。

向山牧騎手騎乗で、800メートル新馬戦をコースレコードに迫る47秒6で圧勝したノーヴイー(笠松競馬提供)

 今年、注目されたのは、井上孝彦厩舎が送り込んだ6頭のうちの1頭、ノーヴイー(牡2歳)。レース当日はちょうど2歳の誕生日だったが、雄大なフットワークで勝利を飾って自らお祝い。5頭立ての第3R、向山牧騎手騎乗で、スタートダッシュからスピードの違いを見せて、他馬を突き放すと手綱を持ったままで大差のゴール。単勝1.2倍の期待に応えた。

 良馬場でのレースでタイムは47秒6。昨年、ボルドープリュネ(笹野博司厩舎)が、重馬場でマークしたコースレコード47秒5に迫る好タイムをたたき出した。笠松競馬場のダートの場合、良馬場より重馬場の方が勝ち時計は約1秒速いとされ、スプリントの800メートル戦では0.5秒程度速くなるという。もしノーヴイーが重馬場で走っていたら、レコードを更新したことだろう。

 生産牧場は日高・グッドラックF。6月5日と遅生まれだが、デビュー戦では498キロと迫力ある馬体。父・ハタノヴァンクール、母・アイルゴーバックという血統。ダービートレーナーとなって、2歳馬育成での手腕が期待される井上調教師。ノーヴイーについては「能力検定では余力を残していた。ジョッキーの評価は高くて楽しみ」と手応え。「動きにも力強さと軽快さがあって能力はかなり高そう」と専門紙も注目の素質馬。デビュー前から向山騎手や陣営が「これは走るよ」と期待していたそうだ。笠松生え抜き馬だけに、地元ファンも応援したくなるスターホース候補といえそうだ。

 7頭立ての第4R新馬戦でも井上厩舎の牝馬が3頭出走。ハルガキタ(藤原幹生騎手)が中団から追い上げ、ジャスミンシャワー(丸野勝虎騎手)に差し切り勝ち。タイムは49秒3とまずまず。佐藤友則騎手騎乗のギリニンジョウは4着だった。新馬戦は毎年5、6レース行われるが、今年は馬場改修のため、8月のお盆開催まで一休み。リニューアル後も快速馬の登場が期待されるし、笠松の名物レース・秋風ジュニア(9月24日)に向けて、一夏の成長も楽しみだ。早熟タイプが多いだけに、距離が1400メートル以上に延びての対応力が問われる。

【笠松競馬・800メートル戦のコースレコード更新】
1985年5月15日
 ■サンキョウスーパー(吉田秋好厩舎) 48秒2 安藤勝己 
 99年6月21日
 ■マエストロセゴビア(樋口富男厩舎) 47秒9 高木健 ※2着はレジェンドハンター 48秒4
2010年9月24日
 ■スリーパンチ(田口輝彦厩舎)    47秒7 筒井勇介
 19年7月19日
 ■ボルドープリュネ(笹野博司厩舎)  47秒5 渡辺竜也

【歴代名馬の800メートル戦の最高タイム】
 オグリキャップは800メートル戦を5回走っており、5戦目の49秒7が最高(高橋一成騎手)。

 ライデンリーダー  49秒3 安藤勝己
 マルヨフェニックス 48秒7 尾島徹
 ラブミーチャン   48秒1 浜口楠彦

 笠松の2歳トップホースなら、中央の重賞を勝てた時代があった。

800メートル戦47秒5のコースレコードを持つボルドープリュネ。ライデンリーダー記念は3着だった

 安藤勝己さんが笠松の騎手だった1990年代後半。「笠松から強い2歳馬が出たら、その馬に乗っていたい。力が分かっている古馬に乗るよりも、未知の2歳馬に乗った方が魅力がある。夢は中央のGⅠ制覇」と語り、若馬の騎乗が増えていた。思い出の一頭として挙げたのがサンキョウスーパーだった。

 「スピードという点では、素質的には、俺が出会った馬で一番だった。1200メートルくらいなら、中央の馬にも勝てたと思う」と。その名は「幻の名馬」ともいえる存在となった。飛びが良くてグングン加速していくタイプで、3戦目の1350メートル戦もレコードタイムで勝ち、重賞は新緑賞を制覇。中央へのトレード話もあったそうだが、馬体故障のため夢舞台には挑戦できなかった。

 99年のマエストロセゴビアは、高木騎手騎乗でレジェンドハンターを破った。当時、47秒台に突入し、衝撃的なタイムが出たことで印象に残っている。笠松版「伝説の新馬戦」とも言われ、レジェンドハンターは中央に挑戦し、GⅡ・デイリー杯3歳S(現2歳)を制覇。GⅠの朝日杯3歳S(現・朝日杯FS)に挑み、惜しくも半馬身差の2着だった。

 2000年のフジノテンビーは、秋風ジュニア、兼六園ジュニアカップを勝ち、デイリー杯3歳Sに挑戦。テイエムサウスポーを破り制覇。クロフネが制したNHKマイルカップにも参戦したが、8着に終わった。ユニコーンSでは2着だった。

 スリーパンチは2戦目、距離が延びた1400メートル戦で5着に敗れ、デビュー戦の1勝どまり。ボルドープリュネはライデンリーダー記念で3着(水野騎手)。今年はヒロインカップを制するなど堅実駆けを見せている。

 今月の話題として、笠松競馬場の公式ツイッターでも紹介されたのが、オグリキャップを主人公とした漫画「ウマ娘シンデレラグレイ」の連載スタート(「週刊ヤングジャンプ」)。のどかな「カサマツレース場」や「カサマツトレセン学園」が舞台。まずは800メートルのデビュー戦から東海ダービーを目指すほか、中央でのタマモクロスとの芦毛対決など名場面へ。数々の名馬を育ててきた笠松競馬が取り上げられ、ストーリーはどう展開していくのか、楽しみである。

■ヤングジョッキーズシリーズ、笠松でトライアル最終ラウンド(11月4日)

ヤングジョッキーズシリーズに出場する深沢杏花騎手(右)と東川慎騎手(左)

 地方、中央の若手騎手が腕を競う「2020ヤングジョッキーズシリーズ」は、新型コロナウイルス感染防止のため、トライアルラウンド川崎と金沢が取りやめとなったが、7月21日の盛岡から各地方競馬場を舞台に実施。笠松では11月4日に、西日本地区トライアルラウンドの最終戦として開催され、ファイナルラウンド(12月24日・園田、26日・阪神)への進出者が決定する。

 笠松からは、昨年けがのため参戦できなかった東川慎騎手(19)が園田(8月13日)と笠松で2戦ずつ、4月にデビューした深沢杏花騎手(18)は佐賀(9月8日)、笠松で2戦ずつ騎乗する。名古屋勢では羽島市出身の浅野皓大騎手(19)が高知(9月22日)と名古屋(10月14日)、新人の細川智史騎手(20)は佐賀と名古屋で騎乗する。ファイナルには渡辺騎手が2度進出しているが、けがなどなく、無事にゲートインすることが第一。深沢騎手はまだ無観客レースしか経験がないが、ヤングジョッキーズシリーズでは多くのファンの前で声援を励みに騎乗することで、技術の向上につなげていけるといい。