【4回戦 県岐阜商4―0高山西】

 「一戦一戦、確実に勝ちを拾い続ける」。鍛治舎巧監督が語るように〝負けない野球〟の県岐阜商が順調にまた一つ階段を駆け上がった。持ち前の圧倒的な打力はまだ全開ではないものの〝負けない野球〟の根幹こそ、盤石の投手陣。4回戦でリードしたのは今大会初マスクの3年生矢野航大だった。1年から毎夏、背負い続けてきた背番号は〝12〟。今夏も同級生の於保光晟が目のけがで出場できなくなった後、背番号2を付けたのは2年の大東要介。「背番号は関係ない。投手のよさを懸命に引き出すだけ」と語る〝背番号12〟の戦いに迫った。

◇課題の肩とリードで、苦闘する日々

 かつて鍛治舎監督が指導していた枚方ボーイズ出身の矢野。新たに採用された県外枠の1期生として、名門の門をたたいた。1年の夏、背番号12でベンチ入りを果たしたが、今でも期待を込めて鍛治舎監督から言われ続けているのが「肩を強くすること」。一時は、捕手を外され、内野に回ることもあった。昨年6月の香川県の招待試合で捕手に復帰。昨夏の岐阜大会にも出場し、2試合で先発マスクをかぶり、鍛治舎県岐阜商の夏2連覇に貢献。甲子園では主力の多くと同様に自身も新型コロナウイルスに感染し、出場かなわず、悔しい思いをした。新チーム後も、台頭してきた同級生の於保が正捕手で、自身はまたしても背番号12だった。

県岐阜商×高山西=3回裏県岐阜商1死満塁、矢野が左犠飛を放つ=長良川球場

◇得意の打撃を生かし、盤石投手陣支える努力誓う

 鍛治舎監督が指摘するリード面の課題は「外角の偏重」。於保負傷後の今春の東海大会決勝・加藤学園(静岡)戦でも外の球を狙い打たれ、競り負けた。次の練習試合から1試合目のマスクは後輩の大東。開幕した岐阜大会でも初戦、2戦目の3回戦ともに出場したのは大東だった。「本当に悔しかった」と振り返る矢野。

 迎えた4回戦。3回戦大垣商で「大東のリードが単調で追い上げられたし、矢野の好調な打撃を生かしたい」と鍛治舎監督が5番で先発起用した。先発の速球王小林希にはストレートを生かしつつ得意のカットボールで3回無安打。2番手の森厳徳には大きな武器になっているスライダーをうまく交え、3回散発2安打。森も「リードしてもらって、うまく出し入れできた」と振り返る。課題と指摘された内角攻めが得意のエース今井翼のリードでは外への配球が多く「追い込んでから、緩い球で打ち取れればよかった」と反省点も口にするが、「自分なりにそれぞれのよさを引き出せたと思う」と振り返る。

県岐阜商×高山西=最後の打者を打ち取り、県岐阜商のエース今井(右)と勝利を喜ぶ捕手矢野=長良川球場

 期待された打撃では無安打だったが、1死満塁から2点目の犠飛を放ち、勝利に貢献した。今後、頂点に向けた厳しい戦いが続くことが予想されるだけに、ますます捕手の存在は重要だ。

 森嶋哲也(もりしま・てつや) 高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。