師弟の絆が生んだ優勝-。28日の第105回全国高校野球選手権記念岐阜大会決勝で、5年ぶり6度目の夏の甲子園出場を決めた大垣日大。岐阜大会最高齢監督の阪口慶三監督(79)は、胴上げで3度宙を舞った。傘寿を前にしてなお試合中は眼光鋭く采配を振るい、選手には柔和な表情で声をかけて鼓舞する名将。「炎天下の中、この年齢で子どもたちと一緒にいられる幸せはこの上ない」。優勝後のインタビューでは目を赤らめて語った。
2005年に就任。前任の東邦(愛知)時代は厳しい指導から「鬼の阪口」として知られていたが、07年に春夏連続で甲子園出場を成し遂げると、選手に伸び伸びとプレーさせる「仏の阪口」になったと話題になった。この日は、春夏連続ではその07年以来2度目、自身35度目の甲子園切符を獲得。「子どもたちの夢を一つ実現できてうれしい。指導者冥利(みょうり)に尽きる」と感慨深げに話す。
試合後に椅子に座ってインタビューに応じることもあるが、体力はまだまだ現役。連日の厳しい暑さも苦しいと思ったことはないといい、「そう思ったら辞めた方がいい。まだ暑さには負けない」ときっぱり。日頃の練習から日陰のベンチに座ることはなく、選手の状態を確認するためせわしくグラウンドを駆け回る。試合前のノックを自ら打つこともあるほどだ。
体力だけでなく気力もすさまじく、「寝ても覚めても野球のことばかり考えてしまう」。午前3時や午前4時に目を覚まして「『どうしたら良い投手になるか』など、選手の成長のために考えることもある」と明かす。そんな阪口監督の姿について日比野翔太主将は「自分たちと同じように練習から戦ってくれている」。年の差60歳を超える選手の信頼も集める。
甲子園で1勝すれば、自身通算40勝の節目となる。孫で4番の高橋慎選手も出場するが、インタビューなどで祖父としての思いを自ら語ることはほとんどない。「甲子園では勝ちまくりたい。40勝より上を狙う」と語る表情は、勝負師そのものだ。口々に「阪口先生に40勝目をプレゼントしたい」と意気込むナインと、心身充実の阪口監督。二人三脚の挑戦が始まる。