笠松重賞の新緑賞をカツゲキキトキトで勝ち、笑顔の木之前葵騎手=2016年4月

 男性主体の競馬サークルの中で、脚光を浴びる女性ジョッキー。現在、笠松競馬には女性の所属騎手はいないが、名古屋の木之前葵騎手(錦見勇夫厩舎)の参戦が注目されている。東海公営のアイドルジョッキーとして笠松でも人気が高く、「勝利騎手インタビューでの葵ちゃんスマイルが見たい」というファンは多い。

 名古屋を主戦場とする木之前騎手だが、笠松開催日にも、ほぼレギュラー騎乗し、今年は91レースで奮闘。笠松では通算47勝を飾っており、「50勝」まであと3勝に迫っている。人気と実力を兼ね備えた若手女性ジョッキーで、デビュー6年目の24歳。地方競馬で既に281勝を挙げており、ヤングジョッキーズシリーズには出場できないが、重賞などでの活躍が期待されている。レース後の木之前騎手に、笠松競馬場の印象などについて聞いてみた。

新緑賞でカツゲキキトキトに騎乗し、ゴールを目指す木之前騎手


 ―笠松競馬場との相性はどうですか。

木之前騎手 好きな競馬場です。乗りやすい馬場だし、ジョッキーの皆さんが優しいので、楽しく騎乗しています。

 ―笠松ではどんなことを心掛けていますか。

 木之前騎手 名古屋競馬場よりも軽い馬場で、名古屋の馬にも合う競馬場です。レースでの勝負どころは、やはり3コーナーへの下り坂ですね。

 ―かつて騎乗していたカツゲキキトキトでは、笠松の新緑賞でも重賞Vを飾っていますが、また騎乗したいですか。GⅠのジャパンダートダービー(大井)では6着でしたね。

 木之前騎手 (兄弟子の大畑雅章騎手が主戦で)今は機会がないですが、できたらまた乗りたいです。ジャパンダートダービーではファンが多くて。ナイターでしたし、ゲートインではすごい声援を受けて緊張したことを覚えています。

笠松での騎乗も多く、活躍が期待される木之前騎手

 ―地方競馬の女性騎手は、岩手の鈴木麻優騎手が今年1月に引退され、佐賀の岩永千明騎手もけがで療養中ですね。ヤングジョッキーズシリーズでは今年、名古屋競馬からの出場騎手がいませんが。

 木之前騎手 地方の女性騎手は1人が休んでいて、(平地競走では現在)3人になりました。「レディスヴィクトリーラウンド」は、今年もやる方向だと聞いていますが、正式には決まっていません。新人ジョッキーは名古屋にも入ってきてほしいですね。

 ―(2度出演した)グリーンチャンネルの番組「競馬場の達人」では目立っていましたね。馬券も的中して、参戦していた笠松の佐藤友則騎手にはお世話になりましたね。

 木之前騎手 また出たいですねえ。(京都のレースで、10番人気で1着になった)佐藤騎手にはもちろん、お礼を言いました。

 ―今後の目標は。

 木之前騎手 (2着、3着の)惜しいレースを少なくして、勝ち星をもっと増やしていきたいです。


東海ダービーには、カツゲキマドンナなどで3年連続の騎乗 を果たしており、ダービージョッキーを目指している

 木之前騎手は宮崎県出身で、レースで着用する勝負服の「ハート散らし」が印象的だ。2015年5月には、イギリスで行われた「レディースワールドチャンピオンシップ」第8戦で見事に優勝。「NAR(地方競馬全国協会)グランプリ2016」の優秀女性騎手賞も受賞。華々しい活躍を見せてきた。重賞は既に5勝をゲット。カツゲキキトキトで3勝(笠松・新緑賞、名古屋・新春ペガサスカップ、秋の鞍)、妹のカツゲキマドンナで園田クイーンセレクション、カツゲキライデンでは尾張名古屋杯を制覇した。偶然だろうが、この3頭はいずれも「カツゲキ」の冠名(馬主・野々垣正義さん)が付いた馬ばかり。カツゲキは、2011年の笠松デビュー馬でもあった。

 現在、地方・JRAで6人しかいない女性ジョッキーだが、落馬事故などによるけがで、岩手の鈴木騎手のようにレースに復帰できないまま引退に追い込まれたケースも目立っている。名古屋では、山本茜騎手がパドックで馬に蹴られて大けがを負い、3年前に騎手免許が失効。通算273勝を挙げて大活躍していただけに、多くのファンが引退を惜しんだ。

 木之前騎手にとっては、ゲートなども要注意だ。4年前には、発走後の落馬で鼻骨骨折などで入院。昨年の東海ダービーではカツゲキマドンナに騎乗したが、ゲートオープンとともに馬がつまずいて落馬。今年6月の笠松のレースでも、スタート直後に落馬してヒヤリとしたが、しなやかな身のこなしで着地し無事だった。騎手には落馬などがつきものだが、これからも大きなけがなどなく、末永く無事に騎乗を続けてほしいものだ。

華やかな女性ジョッキーたち。名古屋競馬参戦で3勝を飾ったJRA・藤田菜七子騎手(中央)と、木之前騎手(左)、宮下瞳騎手

 名古屋の女性ジョッキーといえば、木之前騎手の憧れの存在でもある宮下瞳騎手。女性騎手最多記録の742勝(7月6日現在)を挙げている。2児の母でもあり、一時引退していたが、「子どもたちに、ジョッキーとしての姿を見せたくて」と5年間のブランクを経て現役復帰。一昨年9月には、名古屋に参戦して1日3勝を挙げたJRA・藤田菜七子騎手と、木之前騎手、宮下騎手の3人によるトークショーや撮影会も開かれ、ファンを楽しませた。

 今年の東海ダービー開催日。名古屋競馬場のスタンドに座っていると、「お母ちゃん、調子がいいぞ。この前の開催日、全部1着から3着やった(計8レースに騎乗して)」というオールドファンの声が聞こえてきた。どうやら、宮下騎手のことで、最近では、ママさんジョッキーとして、「お母ちゃん」という呼ばれ方もしているんだと、時の流れを感じた。笠松では2005年7月、当時の女性最多勝利に並ぶ通算350勝を達成し、注目された。

 笠松競馬でも1990年代に女性ジョッキー2人が在籍。中島広美さんは通算120勝、岡河まき子さんは通算20勝を挙げた。中島さんは笠松、大井、金沢を転戦する国際競走「クイーンジョッキーシリーズ」(日、米、英など7カ国参加)にも出走。当時の女性騎手の第一人者で通算350勝を挙げた吉岡牧子さん(益田)とも競った。田口輝彦さん(現調教師)とジョッキー同士の結婚で話題になった。笠松所属の女性ジョッキーがまた誕生すれば、盛り上がるだろう。

めいほう杯をチェリーシャクナゲで制した渡辺竜也騎手と、笠松競馬に溶け込んで勝利を祝福する木之前騎手

 木之前騎手は、平日には名古屋か笠松で騎乗。土日も調教があり、全休日は少ないそうだが、テレビやイベントにも積極参加。昨年の笠松競馬秋まつりには宮下騎手と共に、笠松競馬騎手サイン会にも飛び入り参加して、ファンとの交流を深めてくれた。今年は7月6日現在、名古屋で20勝、2着21回で連対率9.9%。笠松では5勝、2着10回で連対率は16.5%と名古屋を上回っている。地元厩舎のほか、笠松の尾島徹厩舎などからも騎乗依頼があり、6月末にはJRAからの3歳転入馬・エコロインパクトで華麗に逃げ切って圧勝。今後も注目していきたい1頭だ。

 ファンの熱い視線を浴びて、ますますの活躍と飛躍が期待される木之前騎手。笠松サマーカップシリーズ初日の7月10日は、25歳の誕生日でもある。笠松では1日3レースほどに騎乗するので、出走をチェックして応援しよう。重賞3勝を飾らせてくれたカツゲキキトキトとは相性抜群で、またチャンスがあれば、来年のオグリキャップ記念などでぜひ騎乗してほしい。12日には重賞・サマーカップで笠松、名古屋勢が激突するほか、13日にはJRAから笠松に転入したラブミーボーイ(ラブミーチャンの長男)が2戦目(笠松初戦は2着)に挑む。夏本番へ熱い戦いが楽しめそうだ。