【岐阜第一4―3県岐阜商 秋季岐阜県高校野球大会・決勝】

 岐阜第一の1年生エース左腕水野匠登、県岐阜商100周年世代のエース右腕森厳徳。県を代表する左右両投手の投げ合いは、決勝にふさわしい壮絶な粘り合いの末、自ら勝ち越し打を放った水野に軍配が上がった。112球対163球、勝敗の分かれ目、さらには両者ともの収穫は球数にあった。

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岐阜第一×県岐阜商=帽子を飛ばしながら力投する岐阜第一のエース水野=長良川球場

二回から水野の内角攻めが奏功

 最初に失点したのは水野。いきなり県岐阜商1番寺前雄貴に三塁内野安打を許し、犠打失策で二、三塁。3番垣津吏統の左翼2点適時打に4番加納朋季が左前適時打で続き、無死で3失点。県岐阜商のワンサイドかと思われたが、二回から、水野の快投が始まる。

 「県岐阜商打線を抑えるためには厳しいインコース攻め」。立ち上がりは、その狙いが甘くなって連打につながったが、田所孝二監督の指示は二回から実を結び始める。水野の持ち味であるスライダーに加え、直球も厳しいコースに決まり、県岐阜商打線に加点を許さない。県岐阜商鍛治舎巧監督も「4点目を取れるかどうかがポイントだった。あと一本が出なかったし、初回に3点先取後、送るべきだった」と悔やんだ。

 準々決勝・市岐阜商戦での左足筋膜炎の影響で打順が8番に下がった水野だが、全打席で出塁。試合前に飲んだ痛み止めを、試合中にもう一度飲んで、マウンドに立ち続けた。「最後はアドレナリンが出て、痛みがあることすら忘れていた」と激闘を振り返った。

岐阜第一×県岐阜商=粘りの投球を見せる県岐阜商のエース森=長良川球場

終盤も140キロ超え連発の森、力尽きる

 対する森は「先に失点すると相手に流れがゆく。立ち上がりから飛ばした」と試合開始直後に2連続三振、一邪飛で快調スタート。この森の快投に「うちは鑓水(佑哉)も準決勝で抑えた東(秀)もいるが、森が先発したということは最後まで投げるということ。必ず、つかまえられる」と語りかけ続けた田所孝二監督が取った戦略は「待て」。スライダーがきそうな場面で徹底してサインを出し、球種にとらわれず低めを徹底して捨てさせた。

 三回に4安打で2点を挙げて1点差とした後は、ギアを上げ続ける森に1点の壁を越えられない岐阜第一だが、球数を投げさせる田所戦術が逆転の八回に結実する。待ち続けて高めの直球に的を絞った、準決勝3ランのヒーロー山口晄生がはじき返した右飛が敵失となり、2死三塁。この日最速の145キロを記録するなど140キロ超えを連発する森だが、暴投、水野の勝ち越し左前打となった。

岐阜第一×県岐阜商=8回表に勝ち越し適時打を放ち、一塁上でガッツポーズを見せる岐阜第一の水野=長良川球場

岐阜第一終盤の粘り 県岐阜商エースの完投能力 東海へ収穫の両校

 強打の県岐阜商打線に勝ちきったエース水野にとって大きな自信となったが、さらに岐阜第一の終盤の粘り強さは、レギュラーの多くが経験した今夏の岐阜大会準々決勝で大垣日大に敗れた一戦をはじめ、今大会でも重ねてきた激戦で体得した経験値の結晶。田所監督は「東海大会でも一つずつ勝利を積み上げていきたい」と頼もしく成長し続ける選手たちを見つめながら、23年ぶりの選抜出場に照準を合わせる。

 勝敗のポイントとなった森の球数の多さだが、県岐阜商の鍛治舎監督は、逆に終盤に入ってもなお、140キロ中盤を連発し続ける森の力投を東海に向けての大きな収穫ととらえる。「2位になったことで最初の週は連戦となったが、2試合完投といわずとも森が投げ続けられる確証を得た」と指摘する。目指すは選抜出場はもちろん、甲子園での戦後初優勝だ。

 岐阜第一と県岐阜商。互いにさらに強くなる手応えをつかんだ決勝。今大会は3位の中京も含め、岐阜県勢の選抜出場への期待値が最大限に高まった。さあ、いざ東海の舞台へ―。

森嶋哲也(もりしま・てつや) 高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。