消化器内科医 加藤則廣氏

 胃がんの発がんにはさまざまな要因=表=が知られていますが、多くは小児期にピロリ菌が母親から経口感染して生じる慢性胃炎から、長期間の経過後に発生します。2013年には胃発がん抑制を目的として、ピロリ菌感染による慢性胃炎に対して、除菌治療が健康保険で認められるようになりました。ピロリ菌の除菌が成功すれば発がんしないと思われている方もいらっしゃると思います。今回は除菌後にみられる胃がんを取り上げます。

 ピロリ菌の除菌治療法は、制酸剤と2種類の抗生剤を1週間服用します。そして除菌判定は呼気試験か便中ピロリ菌抗原で行われます。以前に除菌治療を受けて除菌成功と診断された患者さんの中には、再びピロリ菌が陽性と診断されて改めて治療を受けた方も少なくないと思います。こうしたケースは、ピロリ菌の再感染ではなく、実は除菌判定が偽陰性であったと推察されます。当初はピロリ菌除菌1カ月後に除菌判定が行われていましたが、少し早過ぎた可能性があります。現在は除菌2カ月後以降に除菌判定されるようになり、こうした偽陰性が少なくなっています。

 ピロリ菌の除菌治療で胃がんの発生は疫学的研究で30%以下に著明に低下することが報告されていますが、ゼロにはなりません。除菌前に既に胃粘膜に胃がんの芽が発生していれば、時間経過で内視鏡的に観察できる大きさになってようやく胃がんと診断されるからです。除菌後10年以上の経過で胃がんが発生した報告もあります。そのため、除菌成功後も一定期間の経過観察は必要で、1年に1回程度の胃内視鏡検査が勧められます。また中には1年後でも進行がんになる患者さんもいらっしゃいますが、多くは早期胃がんであり、外科切除ではなく内視鏡的な治療で治癒します。

 最近の研究では、ピロリ菌除菌後胃がんは、大きさが小さくて、隆起型より陥凹型を呈し、また色調もやや白色調であるなど従来のピロリ菌感染による胃がんとは異なる特徴があることが分かってきました。一方、ピロリ菌に感染していない胃がんも従来のピロリ菌感染による胃がんとは異なった内視鏡像であることが報告されています。しかし、最新の研究と内視鏡機器の進歩によって内視鏡診断能力が格段に向上してきていますので、胃がんの早期診断と治療が可能です。

 またピロリ菌を除菌された患者さんの増加と若年者のピロリ菌感染率の低下により、今後は胃がんは明らかに減少していくことが予想されています。

(長良医療センター消化器内科部長)