向山牧騎手の好騎乗で園田・のじぎく賞(2017年)を制覇した元笠松所属のアペリラルビー。高知競馬で3年ぶりに現役復帰を果たした(NAR提供)

 「太めになりましたが、昔の名前で出ています」―。ここ1年余り、笠松競馬関連では残念なニュースが多いが、最近ちょっとうれしい発見があった。高知競馬「一発逆転ファイナルレース」(7月18日)に懐かしい馬名があったことだ。

 その名はアペリラルビーで、記憶にある競馬ファンもいらっしゃるだろう。以前、笠松・栗本陽一厩舎に所属していた重賞優勝馬で、強烈な末脚が持ち味だった。ネットで検索してみると、7歳になって、4月17日に高知で再デビュー。3年ぶりの復帰戦は馬体重プラス50キロ超と、ふくよかになって出走。パドック登場からファンの熱い視線を浴びていた。

 3歳時には園田「のじぎく賞」を1番人気で制覇。開業3年目の栗本厩舎にとっても、うれしい重賞初Vとなった。中団から脚をためて、大外を回って豪快に差し切り。向山牧騎手の好騎乗が光った。ゴール前では、先に抜け出したタッチスプリンント(高知)を猛追し、「笠松か、高知か、2頭接戦。最後はアペリラルビーか」と熱い実況。3着にも栗本厩舎のウリャオイが11番人気で入り、笠松勢の応援馬券で3連単をゲットでき、印象深いレースになった。

クイーンカップや岐阜金賞でも2着と健闘。笠松競馬の3歳最優秀馬に選ばれたアペリラルビー

 ■パドック周回で「成長分。赤岡さんの体重より重い」

 笠松時代には、東海ダービー6着。岐阜金賞では東海3冠馬になったドリームズラインの2着と健闘。半年間で重賞1勝、2着3回と活躍し、2017年の笠松競馬「3歳最優秀馬」に輝いた。18年5月の東海クラウン4着を最後に登録抹消となり、姿を消していた。「けがでもしたのか」と心配していたが、馬主は変更となって高知競馬(工藤真司厩舎)で現役復帰。地元専門紙には「いったん、繁殖に上がっていたもよう。3年ぶりの出走になります」とあった。

 馬名のアペリラは「4月」(ハワイ語)を意味し、復帰初戦も4月。ファイナルレースで高知リーディングの赤岡修次騎手が騎乗。パドック周回で注目されたのは馬体重527キロで「58キロ増」と、かなり太めになっていたこと。ネット上のファンも「成長分です。もはや有名馬で、赤岡さんの体重より重い」と驚きの声。66キロ増だった能力検査では「ゲート内でおとなしく、スタートも悪くなかった。よれることなくゴールした」(赤岡騎手)と好感触。高知競馬特有の話題づくりもあってか、ファイナルレースには3回出走し、盛り上げてくれている。

 復帰初戦は5番人気で、4番手からの競馬になったが、やはり体重増が響いたのか末脚不発で7着に終わった。高知では7戦して4着(3回)が最高で、まだ馬券には絡んでいない。「もう少し絞れれば。能力的には一発の魅力を秘めている」との声も。
 
 前走では514キロとやや絞れており、ラスト200の伸び脚(36秒2)は、勝ち馬と同タイム。そろそろ馬券圏内に突入し、笠松・すみれ特別以来となる勝利も期待したい。次走は8月1日の高知・第6Rを予定。永森大智騎手との初コンビで、復帰後初Vを目指す。高知では中1週のペースで元気な姿を見せており、応援していきたい。

のじぎく賞で重賞初Vを飾ったアペリラルビーと、喜びの関係者(NAR提供)

 ■園田では626キロの巨体馬が逃げ切りV(川原騎手騎乗)
 
 地方、中央の巨体馬について調べてみた。アペリラルビー復帰戦の3日前には、園田でグラシーナという615キロの超巨体馬が、7カ月ぶりのレースを55キロ増で出走。元笠松の川原正一騎手の手綱に応えて逃げ切り勝ち。5月19日には626キロまで体重を増やし、地方競馬の最高体重V記録(ばんえい除き)を達成し3連勝。「この巨体ですんなり先行して、押し切り勝ちとは」とファンを驚かせた。

 他のスポーツと違って、常に「男女混合、無差別級」で戦う競馬は、データ的にも馬格のある馬が強い。テレビの競馬番組で「迷ったら体重の重い馬を買え」という馬券作戦を聞いたことがあるが、特にダートでは馬力がありそうで頼もしく見える。
 
 なおJRAでは、過去最高の「+66キロ」で出走した馬がいる(5月・新潟、ボンディングタイム15着)。最高馬体重記録はショーグンの640キロ(15年1月・京都、5着)で、626キロでの最高体重V記録も持つ。
 
 一方、軽量馬といえばメロディーレーン。「338キロ」でのJRA最軽量V記録を持ち、ショーグンの半分ほどの体重だが、かわいらしさでアイドル的存在だ。オグリキャップの孫であるレディアイコ(牝3歳)はデビュー戦380キロだったが、軽量馬の頑張る姿はやはり愛らしくて応援したくなる。
  
 長期ブランク明けの競走馬の記録は、北海道競馬でコラボスフィーダが「6年2カ月ぶり」。3歳時の船橋時代には東京ダービー、ジャパンダートダービー3着と好走したが、けがのため長期休養となっていた。9歳になって門別で復帰(35キロ増)。大井から遠征中の安藤洋一騎手(安藤光彰元騎手の長男)を背に、9着で無事ゴール。オーナーは「きょうが引退式のつもりで、1度でもいいので走らせたかった。歩様がしっかりしていて、よく頑張っていた」と愛情たっぷり。その後、4戦で健脚を発揮。7着が最高だったが「無事ゴール、お疲れさま」とファンも頑張りをねぎらった。ラスト3戦はデビュー2年目の水野翔騎手が騎乗した。

宝塚記念6着がラストランとなったミスマンマミーア。一昨年のエリザベス女王杯にも出走。パドックでは笠松競馬関係者も見守った=京都競馬場

 ■ミスマンマミーアは宝塚記念6着がラストラン

 中央競馬では、岐阜県馬主会副会長の吉田勝利さんの持ち馬で、寺島良調教師(岐阜県北方町出身)が管理していたミスマンマミーア(牝6歳)が、6月の宝塚記念6着を最後に引退。生まれ故郷の新生ファームで繁殖入りした。レース後、左前脚の故障が判明したためだった。
 
 門別でデビューし、2歳牝馬戦・フローラルカップで重賞初制覇。船橋を経て19年春から中央入り。今年は日経新春杯(GⅡ)で2着、大阪-ハンブルクCではレコード勝ちを飾るなど活躍。37戦6勝。最後方からの末脚の爆発力が素晴らしかった。

 寺島調教師は「元々、年内で引退する予定でした。今年は重賞2着とオープン勝ち。よく頑張ってくれました。宝塚記念と同じ舞台(阪神)のエリザベス女王杯に使いたかったが。これからはお母さんとして頑張ってほしいです」とねぎらった。

 ラストランとなった宝塚記念は、岩田望来騎手が騎乗し9番人気で6着は立派だった。13番人気での日経新春杯(中京)は松若風馬騎手騎乗で、1頭ポツンと離れた最後方からすごい脚で大外を突っ込んで2着。大阪-ハンブルクC(阪神)の勝利も素晴らしく、一発はまると、ゴール前の切れ味はすごかった。

 一昨年のエリザベス女王杯(京都)では、吉田オーナーをはじめ、笠松競馬関係者も応援に駆け付けていた。パドックは華やかなムード。吉田オーナーの家族をはじめ、田口輝彦調教師と貫太君(現JRA競馬学校生)の親子や、騎手候補生時代の深沢杏花さんの姿もあった。今春、深沢騎手は田口厩舎に移籍しており、やはり縁があったようだ。田口厩舎では重賞戦線での出走馬も多く、深沢騎手が騎乗するチャンスもあるだろう。他場では、園田の佐々木世麗騎手ら女性陣の活躍が目立っている。軽量を生かした逃げ切りVが多く、負担重量4キロ減は大きな武器。「後方から脚をためて、差し切る競馬が好き」という深沢騎手だが、笠松でも逃げ馬は有利。レース再開後は、もっと積極的な騎乗を見せて、勝利を重ねていきたい。

 ■ファンの心をつかんだ高知競馬、笠松再生へのヒントに

 地方競馬の勝ち組として、何かと注目される高知競馬。苦しい時代には馬券が1日4000万円ほどしか売れず、ハルウララのブームを仕掛けるなどして、廃止のピンチからはい上がってきた。今年1月、NHKの番組「逆転人生 じり貧競馬場 執念の復活劇」でも取り上げられた。「ナイター競馬&ネット投票」に加え、負け組の馬たちによる「一発逆転ファイナルレース」が大当たり。ファンの心をつかみ、売り上げ伸び率は全国の地方競馬のトップで、NHKの放送後は1日10億円超えが続いた。近年の超V字回復ぶりは、アイデアを結集させた関係者の努力によるもので、諦めずに前を向き続ける現場の底力は素晴らしい。一方、本年度は赤字必至の笠松競馬。再開後の経営悪化が心配されているが、高知競馬の逆転ぶりは「笠松再生」への大きなヒントを与えてくれている。

 笠松競馬のレース再開はまだか。「8月末か、遅くとも9月中には」とのことで、厩舎関係者や笠松ファンは一日も早い再開日発表を待ち望んでいる。長期休養明けになる400頭ほどの競走馬たち。全馬がいきなりの本番レースでは、接触・落馬事故などの危険性も増す。実戦不足で太め残りだろうから、高知へ渡って3年ぶりに復帰したアペリラルビーのような「安全走行」も見習いたいものだ。勝負に徹する騎手たちも、けががないように、まずは人馬一体でゴールを目指してほしい。