乳腺外科医 長尾育子氏
今日は、乳がんの診療中の方、乳がん検診を受けようとしている方への新型コロナウイルスワクチンのお話です。乳がんの診療中の患者さんから、ワクチンを接種した方がよいのか、副反応のリスクはどうなのか、についてよく聞かれます。新しいタイプのワクチンであるためまだまだデータが乏しいのが実情ですが、日本のがん関連3学会(日本癌(がん)学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会)から最新の知見を基に提言が発信されていますので、それに基づいてお話しします。
がん患者はワクチンを受けた方がよいのか、については、主治医と相談して前向きに検討することが勧められています。悪性腫瘍は新型コロナウイルス感染症の重症化因子の一つに挙げられていますので、日本、そしてアメリカやイギリスなど海外の行政機関では、がん患者(特に治療中の方)を優先接種グループに含めています。がん患者に対してワクチンが、がんを持たない方と同様の有効性と安全性があるかについてはまだ明らかではありませんが、コロナに感染して重症化する可能性を考えると、ワクチン接種を前向きに考えた方がよいということになります。
乳がんの治療中、特に手術、薬物治療中の場合のワクチン接種のタイミングについてです。まず手術に際しては、2回目のワクチン接種後に約15%の方が発熱悪寒を発症するといわれていますので、副反応の時期と手術の時期が重ならないように、主治医に早めに接種について相談しておく必要があります。副反応の期間も人それぞれですので、当院ではなるべく2週間前までに接種をしていただくようにしています。
乳がんの薬物治療中、特に抗がん剤治療の場合には、抗がん剤の副作用とワクチンの副反応が重なると、どちらの症状かの判断が難しく適切な対処ができない可能性があるため、抗がん剤投与の前後数日間はワクチン接種を避けた方がよいでしょう。抗がん剤投与による骨髄抑制や熱発性好中球減少が心配される場合には、同時期のワクチン接種は避けた方がよいでしょう。
他に、ワクチンによって期待する効果が十分に得られない可能性がある薬剤として、免疫抑制剤、抗がん剤の副作用を抑制する目的で投与するステロイドなどがありますので、点滴以外の薬物治療を行っている方も、ワクチン接種に際して休薬の必要はないか、主治医に確認してください。
進行乳がん、再発乳がんの治療中の方で、微熱が続く、ご飯が食べられないなど、毎日の体調が優れない場合には、副反応の影響も大きいと考えられますので、無理にワクチンを接種しなくてもよいと考えられます。
ワクチンは腕の筋肉(三角筋)に接種することが推奨されています。乳がんの手術側の腕にワクチンを接種した場合にリンパ浮腫を起こしやすいかどうか、現時点では十分な知見がありません。副反応としてリンパ節の腫れが起きることがあるため、乳がん術後のリンパ浮腫がある場合や放射線治療を受けリンパ節に治療が及んだ時には反対側に接種することが提案されています。すでに手術側にワクチン接種をしてしまった方については、その後特に変わりなければ過剰に心配しなくてよいと思われます。
ワクチン接種については前向きに検討し、不明な点がある場合には主治医と相談して判断してください。
(県総合医療センター乳腺外科部長)