硝子体内の濁りが網膜に投影されて飛蚊症が生じる(参天製薬冊子から一部改変)

眼科医 金田正博氏

 今回は飛蚊(ひぶん)症についてお話しさせていただきます。白い紙や白い壁、青空などを見た時に、目の前に何か浮かんで見える現象を飛蚊症と呼びます。経験された方も多いのではと思います。

 目の中には硝子体というゼリー状の透明な物質があり、そこに何らかの原因で濁りが生じるとその影が網膜に投影されて目の前に物が浮かんで見えるようになります。多くの場合「生理的飛蚊症」といって心配ないものですが、中には危険な病的なものもありますので注意が必要です。ではどんなものが原因になるのでしょう。

 まずは生理的飛蚊症です。胎児の頃は硝子体内に血管があり、出生する頃にはこの血管が無くなっているのですが、生後もこの血管の名残が硝子体内に残っていると、この影が網膜に映って飛蚊症が生じます。また、加齢とともに硝子体を包んでいる膜が網膜から剝離し(後部硝子体剝離と呼びます)、硝子体内に濁りができます。60歳前後から生じてきますが、近視の強い方はもっと早い段階から起きる傾向があります。これらは病的なものではなく放置していて構いません。

 そして、病的な飛蚊症についてです。飛蚊症を来す疾患にはいろいろなものがありますが、われわれが最も警戒するのが網膜裂孔(網膜に穴や裂け目ができる状態)です。網膜裂孔が生じるとその後に網膜剝離が起きてきます。網膜剝離は失明につながる病気で、これが起きると、入院してやや大がかりな手術が必要になります。ただ、裂孔が生じてもまだ網膜が剝離していない状態で見つけることができれば、裂孔の周囲にレーザー光線を当てる処置を行えば(これは外来で比較的簡単にできます)、多くの場合網膜剝離を予防することが可能です。

 次に硝子体出血です。糖尿病網膜症はじめさまざまな網膜血管病変で硝子体に出血を起こすことがあります。この血液の影が網膜に投影されて飛蚊症が生じます。水の中に墨を流したような感じと訴える方が多いです。

 そしてぶどう膜炎。何らかの原因で目の中に炎症が起きた状態をぶどう膜炎と呼びます。炎症性の細胞が眼内に出てくるために硝子体内に濁りが出てきます。これも原因によっては速やかな治療が必要になります。

 飛蚊症が出てきたら、その原因をしっかりと調べなければなりません。しばらくして症状が消えたからといって決して安心はできません。その症状が生理的なものなのか、病的なものなのかしっかりと眼科で調べてもらってください。そこで注意が必要なのは、生理的飛蚊症と言われても、急に目の前に浮かぶものに変化があった場合は、今度は病的なものの可能性がありますから、その際には必ず眼科を受診してください。