消化器内科医 加藤則廣氏

 慢性肝炎は肝炎ウイルス、アルコールや脂肪肝などにより肝臓に慢性の炎症がみられ肝臓の機能が低下します。進行すると肝硬変になって肝不全を来します。肝不全には黄疸(おうだん)や腹水などの他に意識障害を来す肝性脳症と呼ばれる症状が出現することがあります。今回は肝性脳症を取り上げます。

 肝臓の主な働きは、必要なタンパク質などを作る「合成」、栄養分を貯蔵する「蓄積」、有害な物質を無害化する「分解」などがあります。意識に影響を及ぼすアンモニア、γ(ガンマ)アミノ酪酸(GABA)や偽性神経伝達物質などの有害物質は腸管で産生されますが、肝臓での分解が不十分になると肝性脳症を発生します。

 肝性脳症には自覚症状がほとんどない状態から昏睡(こんすい)に至るまで程度で分類されています=表=。ミニマル脳症(潜在性脳症)は臨床症状がみられません。心理・神経機能検査で診断されますが、まだ統一された診断基準はありません。Ⅰ度の脳症では認知能力のわずかな低下や情緒の不安定がみられますが、通常の加齢によるものや認知症との鑑別が難しい症状です。欧米では両者を併せて不顕性脳症と分類しています。不顕性脳症は日常生活において判断能力が低下しているために自動車の運転などは避けた方がよいとの報告もみられます。一方、Ⅱ度以上の脳症は患者さんの言動に異常がみられ家人や周囲に容易に気付かれますが、入院治療が必要です。

 肝性脳症は発熱、便秘、下痢、感染症などが発症の要因となりますが、不顕性脳症の段階からの治療が必要です。アンモニアなどはタンパク質を消化する際に消化管内で発生しますのでタンパク質などの摂取制限をする食事療法が重要です。またアンモニアは肝臓だけなく筋肉でも分解されます。慢性肝炎や肝硬変の患者さんは全身の筋肉が少なくなる「サルコペニア」と呼ばれる状況でやせた方が多いため、栄養療法と運動療法により一定の筋肉量を保つことが大切です。

 治療薬には便通改善薬やバリン、ロイシン、イソロイシンを含んだ分枝鎖アミノ酸(BCAA)製剤が用いられます。また吸収されにくい抗菌剤の投与がアンモニアの産生を抑制します。さらに亜鉛やカルニチンなどの不足が肝性脳症を引き起こすので、低値であれば製剤が投薬されます。一方、急性期には特殊組成アミノ酸製剤が点滴投与されます。また側副血行路といった肝臓を通らない血流がある場合は血管造影検査を用いて側副血行路をふさぐ治療法(BRTO)が選択されることもあります。

(長良医療センター消化器内科部長)