岐阜県の鳥はなにか知っていますか? ライチョウです。絶滅危惧種で、国の特別天然記念物に指定されていますが、隣の長野県中央アルプスでは復活作戦が展開されています。密着取材をしている長野市の山岳ジャーナリスト近藤幸夫さん(65)は岐阜市出身。全国紙を早期退職してライチョウを追い続け、初の著書「ライチョウ、翔んだ。」(集英社インターナショナル)を書き上げました。なぜライチョウ? なぜ辞めてまで? 近藤さんがオンラインインタビューに応じてくれました。

近藤幸夫さん(近藤さん提供)
近藤 幸夫(こんどう・ゆきお) 1959年生まれ、岐阜市出身。厚見小学校、厚見中学校、岐阜高校を経て信州大学農学部を卒業後1986年、朝日新聞社に入社。初任地の富山支局で山岳取材をスタートし、南極や北極、ヒマラヤ、雪男捜索など海外取材を多数経験。2021年12月、朝日新聞社を早期退職し、フリーの山岳ジャーナリストに。長野市在住。日本山岳会、日本ヒマラヤ協会に所属。日本山岳会岐阜支部副支部長兼理事。

◆ライチョウは追い込まれている

 ーきっかけはなんだったのですか?

 近藤 岐阜高校から信州大学に入って登山を始めて、北アルプスでなんどもライチョウ見ていましたが、ここまで不思議な鳥で、ここまで深刻な状況に追い込まれていると知ったのはあの記者会見がきっかけでした。

 2015年当時、朝日新聞長野総局に勤務していました。長野県庁でテーマは詳しく分からないがライチョウの記者会見があるというので行きましたら、サルがライチョウを捕食しているという発表でした。これはまずい、と一瞬で分かりました。宮崎県串間市の幸島のサルのイモ洗いのように、文化としてサルが捕食することが北アルプス全体に広がってしまったらライチョウは一瞬で絶滅してしまいます。

 それで調べれば調べるほど、こんな面白いテーマはないと思って現在進行形です。記者って人が知らないことを一番最前線で知りたいという気持ちがありますよね。

 本を読んでいただいたら分かりますが、本当に深刻な問題を含んでいます。だれかが解説者をしないといけないと思ったのです。

「ライチョウ、翔んだ。」 近藤幸夫著 集英社インターナショナル発行
「ライチョウ、翔んだ。」 「私は、ライチョウのために、第二の人生の扉を開けてしまった」。2018年、中央アルプスで半世紀ぶりに1羽のメスのライチョウが見つかった。後に「飛来メス」と呼ばれることになるこの1羽がきっかけになり、中央アルプスでの「ライチョウ復活作戦」が始動。環境省や研究者を記者として追っていくうちに、著者自身も長年務めた新聞社を退職して深く関わっていく。「第21回開高健ノンフィクション賞」最終候補作品。集英社インターナショナル(2200円)。

 ー研究者にも迫っています

 近藤 2015年の記者会見で初めて会ったのが信州大学名誉教授の中村浩志先生でした。

 現場に行くと、中村先生が怒鳴りまくっているのです。先生は70歳を超えているのだけど、土砂降りの雨のなか、作業しているのを見ると頭下がります。ライチョウを見るとスイッチが入ってしまうのですね。先生は「僕は冷静に怒っている」というけど、どうみても瞬間湯沸かし器、感情のまま怒っているとしか思えないときがあるのですが、それぐらいの情熱がなければできません。

 ケージ保護(※1)とか、ライチョウがどんなところに住んでいるのか、とか。いくら本を読んでも分からないことがあります。それで現場に行って取材をすると中村先生に手伝わされる。戻ってきて記事を書く。それを継続してやっていたのは僕一人でしょう。(※1・・・生息地にケージを設置し、ふ化直後のひなと母鳥を収容。約1カ月間、人の手で守る対策)

 これほど楽しく、なおかつ最先端の取材はないと思います。

◆半世紀ぶりにみつかったライチョウ

ーそんな中、1羽のライチョウが中央アルプスに現れました

 近藤 2018年、中央アルプス駒ケ岳でライチョウのメスが見つかりました。中央アルプスで見つかったのは半世紀ぶりでした。「飛来メス」と呼ばれるこのライチョウの発見により、保護増殖事業は大きな転換点を迎えました。

「飛来メス」を調べる近藤さん(近藤さん提供)

 北アルプスの乗鞍岳から有精卵を持ってきて飛来メスに抱かせました。結果的に全滅しましたが、飛来メスが産んだ無精卵と入れ替えても抱卵してふ化できると技術開発ができました。

 2020年8月には乗鞍岳から駒ケ岳にヘリコプターで3家族計19羽を運びました。ライチョウをヘリで運んだのは初めて。16分間の飛行でしたが、これも一つの技術開発ですね。ヘリで運べることが分かって、そういうことの積み重ねで来ていて今最終段階です。

 すごく不思議なのですが、中村先生の言った通りになっているのです。僕らはみんな無理じゃないか、夢みたいな話と言っていたのが、50年前に絶滅した中央アルプスへ1羽のメスが飛んできて、卵を抱かせて、3家族持ってきて、現段階で春の成鳥が120羽以上、ひなが生まれているので数百羽います。

 2019年に飛来メスに有精卵を抱かせることを中村先生が提案しました。あの段階では他の委員の先生たちも、そんなことができるのか?と。卵を入れ替えてふ化させて、育ててとか誰もライチョウでやったことがありません。先生が言ったとおりにして、卵を入れ替える技術は確立されました。

 今、ライチョウは絶滅危惧ⅠB類ですが、このまま生息地や個体数が増えればⅡ類に引き下げられると見られます。

記事後半では近藤さんが早期退職して思うこと、岐阜県のライチョウについて紹介しています。

 ー山を好きになったのはいつですか?

 近藤 山のきっかけは岐阜高校の林間学舎。岐阜高校には林間学舎というのがあって、奥飛騨温泉郷の中尾、焼岳の麓に林間学舎がありました。1年生は全員で行って、西穂高岳独標のお花畑まで登山するというのです。それが初めて本格的な北アルプス登山でした。...