岐阜市早田大通のカムカムスワローは、美しい植栽と木枠のガラス戸に囲まれたおしゃれなカフェ。普通にお茶やランチが楽しめますが、最大の特長は隣接する病院の歯科医師がつくったカフェであり、のみ込みに難がある人向けの「嚥下(えんげ)食」も提供していること。嚥下障害と診断されている人は全国に100万人以上と言われますが、嚥下食を出す飲食店は数少ないのが現状です。「誰もが食べることを楽しみ、地域コミュニティーの拠点となる場所をつくりたい」という若き歯科医師の思いから生まれた、全国でも類のない新しい施設です。
店名の由来は「噛(か)む」と「COME=来る」、そして、「ツバメ」とともに「のみ込む」の意を持つ「SWALLOW」。2022年12月に近石病院歯科・口腔外科の歯科医師近石壮登さん(37)の構想の下、オープンしました。ドリンク代のみで提供するモーニング、管理栄養士監修の体に良いランチが人気で、常連客も増えています。
口腔機能が衰えた人でも安全に食べられる嚥下食は、予約に応じて提供しています。事前の聞き取りをもとに、食材をミキサーにかけて軟らかくしたり、汁物にはむせるのを防ぐためにとろみをつけたりと、個々の障害に応じた形状で出しています。
◆卵焼きはミキサーにかけてから成形
できる限りおいしく、楽しく食べてもらいたいと、味や見た目にも配慮しています。例えば、卵焼きはミキサーにかけた後で元の形に整えており、一見、普通の卵焼きと変わりません。しかし、口に含むとほろほろと崩れ、かまなくてものみ込める状態になります。野菜もつぶしてから型を使って成形したり、ゼリーで固めたりした上で、通常食と同じドレッシングをかけています。ドリンク類にはすべて、とろみが付けられます。
嚥下食も通常のメニューと同様、彩り良くプレートに盛ることで、家族や友人たちと共に食べる喜びを味わえるよう工夫しています。嚥下障害のため、外食を諦めかけていた利用者からは、「家族と一緒に食事をするのはもう無理かと思っていたのでとてもうれしい」「丁寧に聞き取りをした上で食事を用意してもらい、非常に満足できた」といった喜びの声が寄せられ、県外から来店する人もいます。
またここは、管理栄養士が常駐する栄養ケア・ステーションとしても機能しています。食や嚥下に悩みを抱える人の相談に乗るほか、栄養セミナーや介護予防イベントなどを開催しています。相談者の症状によっては病院につなぐこともでき、「地域と医療をつなぐ窓口」の役割も担っています。
◆食べにくさ、誰にでも起きる
近石さんはなぜ、このようなカフェを開いたのでしょうか。...