活版機で印刷した紙製品を手にする中西弘和さん

 印刷需要の落ち込みにより業界が苦境に立つ中、奈良市の印刷会社「実業印刷」が、衰退した活版印刷に光を当てた紙製品を生み出し続けている。工場で活版印刷機を操る中西弘和さん(62)は「手にした人の心に残る『取っておきたい紙』を刷りたい」と願う。

 1959年に創業した同社は製本の傍ら、役所の資料印刷も請け負ってきた。しかしペーパーレス化が進み入札は激減。廃業に追い込まれる同業者も増えた。

 状況を変えようと8年ほど前にアイデアを出し合った際、若手社員から「活版印刷を復活させるのはどうか」という声が上がった。手作業ならではの風合いが再び注目される流れを反映した意見だった。

 そこで入社当時から活版機を使い続けていた中西さんに白羽の矢が立った。活版機で印刷すると、一枚ごとに表情の違うかすれたようなインキの風合いや、文字の凹凸の違いが味わえる。

 現在は、再び第一線に戻った活版機でシカや社寺といった奈良らしい絵柄を刷ったはがきや、受注生産の名刺などを刷る。外国人観光客から若い世代まで幅広い層に好評だという。