手話劇「手紙」の稽古=5月、広島市

 静寂の中、原爆投下で顔や腕にやけどを負った少女を手当てする女性のおえつが、稽古中の舞台にこだました。耳の聞こえない被爆者の体験を題材にした手話劇が、7月20日に広島市内で上演される。原作・演出を担当した手話通訳者仲川文江さん(85)は「聞こえない人がこの80年をどう生きたか、知ってほしい」と期待を込める。

 「手紙」と題された劇は、広島の街で原爆投下に巻き込まれたろう者の家族の葛藤を、子や孫の成長を通じて戦前から現代まで描く。音声通訳と字幕スクリーンを用意し、手話が分からない人にも伝わるように工夫した。

 ろう被爆者の数を示す正確な統計はないが、広島市と長崎県のろうあ協会によると、広島では入市被爆を含む189人が亡くなっており、当時を証言できるのは現在、男性1人だけという。長崎では約100人が被爆したとみられ、確認できる生存者は7人のみ。被爆80年が迫る中、当時を知る人はほとんど残っていない。

 手話劇は、広島市の「アステールプラザ」で上演されるが、チケットは完売したという。