「ナイフを研いでやる」「死んでやる」「嫌い」―。実はこれ、人の名前なんです。アフリカ南部のボツワナでは、現地の言葉でこんな意味の名前の人たちがいるといいます。なぜこんな名前? そんな疑問を持ってしまいますが、そんなユニークな名前も、ある理由で減ってきているそうです。多治見高校(多治見市坂上町)で、文化人類学者が異文化理解について生徒たちに話しました。(岐阜新聞デジタル独自記事です)

講演したのは津田塾大学学芸学部多文化・国際協力学科教授の丸山淳子さん。筑波大、京大院で文化人類学を学んできた丸山さんは20年以上にわたり、ボツワナのサン人という狩猟採集民族について研究しています。サン人はかつてブッシュマンと呼ばれていました。長期間にわたって一緒に住むなどフィールドワークをして、彼らの暮らしや考え方を調べています。
◆求婚を拒み続けたから娘の名前は「嫌いさん」
研究テーマの一つが名前。サン人の名前はとても特徴的で、丸山さんのホストファミリーはこんな名前だといいます。かっこ内が名前の意味です。
父 キレマカオホさん(ナイフを研いでやる)
母 オーマさん(死んでやる)
娘 アンタマさん(嫌い)
なぜこんな名前なのでしょう。丸山さんによると、彼らは妊娠中や生んだときの出来事にちなんで子どもの名前をつけるそうです。なにがあったかというと…。

父 キレマカオホさん→キレマカオホさんの母の浮気に、キレマカオホさんの父が「ナイフを研いでやる!」と怒った。
母 オーマさん→出産時に誰も助けてくれなかったオーマさんの母が「死んでやる!」と言って非難した。
娘 アンタマさん→キレマカオホさんの求婚をオーマさんが「嫌い」と拒み続けた。(キレマカオホさんはオーマさんのご両親をまず説得したそうです)
◆名前と人生は関係がない、という思考
それにしても、です。こんな名前をつけなくてもいいのに、と日本人なら思ってしまいそうですが、丸山さんは別の見方を示します。「名前はいいもの、願いが込められたものでなければいけない、という価値観は普遍的ではないのです」...