岐阜大学出身研究者の名を冠した「Prevotella mikamonis」を提唱
2026年4月23日
岐阜大学
馬の呼吸器感染症から新種の細菌を発見 ―岐阜大学出身研究者の名を冠した「Prevotella mikamonis」を提唱―
本研究のポイント
・ 馬の呼吸器感染症検体から分離された未知の偏性嫌気性細菌(*1) 5株を解析したところ、新種の細菌を発見しました。
・ 生化学的性状の解析により既知種と異なる特徴が示唆され、続いて16S rRNA遺伝子解析(*2)およびrpoB遺伝子解析(*3)により、本菌群が既知のPrevotella属(*4)細菌とは明確に異なる独立系統であることが明らかとなりました。
・ 全ゲノム解析(ANI(*5)・dDDH(*6))においても既知の細菌とは遺伝的な類似性が低く、新種であることが強く支持され、加えて脂肪酸組成およびMALDI-TOF MS(*7)解析により、表現型レベルでも既知種と識別可能な特徴を有することが確認されました。
・ 発見した細菌は、微生物学分野で多くの功績を残した岐阜大学出身の研究者、三鴨廣繁(みかもひろしげ)博士にちなんで「Prevotella mikamonis(プレボテラ・ミカモニス)」と命名しました。
研究概要
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター(兼 高等研究院 微生物遺伝資源保存センター)の林 将大准教授らの研究グループは、JRA競走馬総合研究所、帝塚山大学、国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所および高知大学との共同研究で、日本国内における馬の臨床検体から分離された未知の偏性嫌気性細菌について詳細な解析を行い、細菌種「Prevotella mikamonis」を新たに発見しました。
本研究では、日本国内において馬の呼吸器感染症検体から分離された嫌気性グラム陰性桿菌5株について、形態や生化学的性状および遺伝子情報に基づく詳細な解析を行いました。その結果、これらの菌株は既知のPrevotella属細菌とは明確に異なる独立したグループに属することが分かりました。16S rRNA遺伝子やrpoB遺伝子の解析に加え、全ゲノムレベルでの比較解析(ANIおよびdDDH)においても、既知の細菌とは遺伝子配列の一致度が低く、同一種とは判断できないレベルであることが示され、新種であることが裏付けられました。さらに、脂肪酸組成や質量分析による特徴も既知種と区別可能であることが確認されました。これらの結果を踏まえ、本研究グループは、本菌群を新種Prevotella mikamonis(プレボテラ・ミカモニス)として提唱しました。
なお、本菌は、岐阜大学出身で嫌気性菌感染症を含む各種微生物感染症研究の発展に大きく貢献した日本の医師・微生物学者である三鴨廣繁(みかもひろしげ)博士にちなんで命名されたものです。本研究は、嫌気性菌の多様性解明や馬の感染症理解の進展に寄与する成果です。
本研究成果は、日本時間2026年4月8日に微生物分類学の分野で権威のある国際学術誌International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology誌のオンライン版で発表されました。
研究背景
Prevotella属は、1990年に提唱された比較的新しい細菌群で、現在では50種以上が報告されている大規模な分類群です。口腔内や腸管、環境中などに広く分布し、ヒトでは皮下組織感染や肺感染、血流感染などに関与する日和見感染菌として知られています。また、馬においても歯周炎や呼吸器感染症との関連が指摘されています。
近年はゲノム解析技術の発展により、従来同一種と考えられていた菌の中にも、遺伝学的に異なる新種が多数存在することが明らかになってきました。しかし、特に動物由来の嫌気性菌については未解明な部分が多く、分類学的整理が十分に進んでいないのが現状です。
こうした背景のもと、本研究では日本の馬の呼吸器感染症検体から分離された未同定のPrevotella属菌に着目し、その詳細な性状解析を行うことで、新種としての位置づけを明らかにすることを目的としました。
研究成果
本研究により、馬の呼吸器感染症に関連する嫌気性細菌の中に、これまで認識されていなかった新たな細菌種が存在することが明らかとなりました。本成果は、動物由来感染症に関わる微生物の多様性理解を大きく前進させるものです。
新規発見した細菌種の系統樹
馬の呼吸器感染症から分離された細菌は、既知のPrevotella属細菌とは異なる
独立したグループを形成しており、新種であることが示された。
今後の展開
今後は、本菌の病原性や感染への関与の程度、薬剤耐性特性の解明を進める予定です。これにより、獣医療における診断精度の向上や適切な治療戦略の構築への応用が期待されます。また、本研究で整備された菌株リソースを活用することで、動物由来感染症に対する迅速診断技術や検査キット開発への展開も見込まれます。
研究者コメント
本研究では、馬の臨床検体から分離された細菌を詳細に解析することで、新たな細菌種の存在を明らかにすることができました。特に、従来の手法に加えてゲノム解析を組み合わせることで、分類学的に明確な位置づけが可能となった点が大きな成果です。
今後は、本菌の病原性や臨床的意義の解明を進めるとともに、動物由来感染症研究の発展に貢献していきたいと考えています。
用語解説
*1 偏性嫌気性細菌
酸素の存在下では増殖できない、あるいは増殖が極めて阻害される細菌の総称。動物の口腔内や腸内、土壌・汚泥など、酸素の少ない環境に多く存在する。
*2 16S rRNA遺伝子解析
細菌の系統関係を調べるために広く用いられる遺伝子解析手法で、細菌同定の基本となる。
*3 rpoB遺伝子解析
RNAポリメラーゼの一部をコードする遺伝子で、16S rRNAよりも高い分解能で菌種の識別に用いられる。
*4 Prevotella属
嫌気性のグラム陰性菌の一群で、ヒトや動物の口腔内・腸管・呼吸器などに広く分布する。日和見感染の原因菌となることがある。
*5 ANI(Average Nucleotide Identity)
2つのゲノム間の塩基配列の一致度を示す指標で、細菌の種判定に用いられる。一般に95~96%以上で同一種と判断される。
*6 dDDH(digital DNA-DNA hybridization)
ゲノム配列に基づいてDNAの類似性を評価する手法で、70%以上で同一種とされる。
*7 MALDI-TOF MS
質量分析を用いて細菌のタンパク質パターンを解析し、迅速に同定する技術。臨床検査でも広く利用されている。
論文情報
雑誌名:International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
論文タイトル:Prevotella mikamonis sp. nov., isolated from equine clinical specimens
著者:Hayashi M, Yonetamari J, Muto Y, Kinoshita Y, Uchida E, Niwa H, Fujiwara N, Nakaya M, Yamagishi Y, Tanaka K.
DOI:10.1099/ijsem.0.007112











