おじさんには、おじさんの食べたいものがある。「俺たちの岐阜メシ」は、岐阜市在住の食通・山本慎一郎さん(山本佐太郎商店社長)が、年間300日以上の外食生活で出会った「リアル岐阜メシ」を語る連載企画です。第8回は「バロッサ・コクテリエ」(岐阜市金宝町)。かつて「中西」「二番館」「RICK'S」といった名店が全国にその名を轟かせた岐阜市のバー文化。その歴史の中で、全国に向けてカクテル文化を発信し続ける一軒。大人がワクワクする、岐阜を代表するバーです。(岐阜新聞デジタル独自記事です。今回は無料記事にしました。最後までごゆっくり)
大抽選会!菓子まき…岐阜新聞感謝祭!詳しくはこちら大人が憩える場所。日々の緊張から解き放たれ酒に漂う時間。日常にまた戻るための安らぎと刺激がバロッサにはある。
令和8年5月10日、29周年を記念したカクテルイベントが開催された。昭和・平成・令和をバーテンダーとして歩んできた中垣繁幸さんのカクテルの歴史を振り返る試み。20歳の時に創作した日本酒ベースのフローズンカクテル「紫陽花時雨」から始まり、20代でカクテルコンペティションNBA中日本決勝大会で優勝を成し遂げた「Parfum l’aube/夜明けの香り」など計10杯のカクテルを味わった。岐阜のバー文化の向上を志し、挑戦を繰り返した若き日の創意と時代背景が見て取れた。
◆今ここでしか飲めない
バロッサは会員制であるが敷居が高いわけではない。来店時に記帳して会員となる。女性1人でも気軽に来られる空間。お互いが安心して楽しめる環境の中で自由に過ごすことができる。
カクテルをわかりやすく楽しめるようプリフィックスコースが用意されている。今ここでしか飲めない旬のカクテルから定番まで、今日のおすすめのメニューから3杯を選ぶ。
「毎週メニューを書き換えているので献立作りは大変ですが、素材を探しに行くことも楽しみなんです」。カモミールや金木犀など、中垣さんご自身が収穫に行かれる。「岐阜にはハーブやフルーツなどの素材が豊富にあります。この土地ならではの強みだと思っていますので最大限に生かしたいです」。
◆店内のプランターから摘み取る
まず1杯目は「ハーバルジントニック」から。店内のプランター(通称バロッサ菜園)からハーブを摘み取る。観賞用ではなくすべてがカクテルの素材となる。イエルバブエナ(キューバミント)、ラベンダー、アロマティカス、スイートバジル、山椒、仕上げにエディブルフラワーを添えて。合わせるのは自社蒸留所「長良酒造」LONG GOODのジン。
「一般的なドライボタニカルではなく、フレッシュハーブを蒸留しているのが特徴です。そのため生のハーブと相性が非常に良いのです」。
ハーブの香りがふわっと立ち上がり、余韻が続く。フレッシュハーブとジンの香りが重なり合う初夏にぴったりのカクテル。その時々の自然を映し出すジントニックには中垣さんの思想が表れる。
「これまでのカクテルは、シロップやリキュールを組み合わせるのが主流でした。でもそこに生命力を乗せることができれば、もっと直接的なおいしさを届けられると。そして岐阜という土地は、それを表現する素材に恵まれています」。カクテルで生命力を表現する。生命力を得ることで、我々も自然の一部であるのだと悟る瞬間が訪れる。
◆時代と共に変化する
続いて2杯目は、フレッシュブラックベリーとジンのカクテル「ブランブル」をいただく。
「クラッシックカクテルは主に19世紀に誕生したもので、蒸留酒にシロップや果汁などを加えたスタイル。その構造を引き継ぎながら、現代的な材料や構成で再解釈したものをモダンクラッシックカクテルと呼ぶことが多いです。さらに自家製素材や調理を取り入れたものはミクソロジーカクテルと呼ばれています」。
カクテルを調理するという概念。バロッサでは地元の旬の果実を取り入れ「ナチュラルカクテル」として表現している。ブラックベリーが驚くほどジューシー。時代と共にカクテルが変化している。
「40年近くバーテンダーをしていますが、ワインやウイスキーは『昔のほうが良かった』と言う話になりがちです。でもカクテルはちがいます。使うフルーツが年々良くなっているので、どんどん進化しています。だからカクテルの未来は明るいと思っています」。
変わり続けるバロッサとカクテルにいつまでも寄り添っていられたら幸せだ。
◆年に数回しか出会えない1杯
3杯目は「ラベンダーダイキリ」を。ラベンダーもバロッサ菜園から摘み取り、ラムに短時間漬け込み、しっかりと香りを移す。クラッシックなダイキリにフレッシュなラベンダーの香りが華やぐ年に数回しか出会えない貴重な1杯。
「ダイキリはキューバ生まれのカクテルで、フローズンスタイルでも親しまれています。そのため氷との相性が非常に良く、シェイクによって生まれるアイスフレークもあえて残しています」。
シンプルなのに奥行きがある。「ラムと砂糖、ライムだけというシンプルな構成ですが、ラベンダーの香りが加わることで厚みが生まれます。シンプルだからこそ表現のしがいがありますね」。
訪れる度に新しい感動があり、ここでしか飲めない1杯は岐阜でしか飲めない1杯である。中垣さんのクリエイティブの原点はどこにあるのか。
「素材ありき。素材を見たときに、この魅力をどう生かそうかと考える。それはカクテル作りも蒸留所の商品開発も同じです。岐阜という土地は、素材と出会う機会が本当に多い。その恩恵は大きいと思います」。
◆カクテルは自由だ
バロッサの魅力はカクテルに留まらない。階下にはレストラン「バル・バロッサ」があり、田島祐士シェフのスペイン料理をバロッサでも楽しむことができる。料理とカクテルのペアリングにも無限の可能性が広がっている。
「カクテルの面白いところは、既存のお酒に自由なアレンジを加えられること。ワインと料理を合わせるペアリングは一般的ですが、カクテルならワイン同士をブレンドするような発想も可能。組み合わせの自由度が非常に高いんです」。
どのように注文するのがよいだろうか。「この料理に合う1杯を作ってくださいと伝えていただくのが一番ですね。例えば揚げ物なら料理を邪魔しない方向で合わせることもできますし、食後ならブルーチーズと蜂蜜のような対比を楽しむ組み合わせもできます」。
ペアリングによる未知なる領域に足を踏み出すことができる。
◆鵜飼のお供にカクテルを
バーのカクテルはカウンターに座らないと味わえないが、場所を選ばず楽しめるカクテルを目指して作られたのがLONG GOODである。コロナ禍を経て、令和4年に長良川のほとりに蒸留所を構えられた。
岐阜の魅力は水である。長良川の伏流水が使われている。バロッサのカクテル作りの思想が反映されており、フレッシュな香りを活かすため、蒸留温度や気圧をロットごとに変えながら、缶に充填される。ボディ感を出すためにお茶がボタニカルとして使われているのも特徴。添加物に頼らず、素材だけで構成されているからゴクゴク飲めて後味もよい。中垣さんのカクテルを片手に鵜飼へ繰り出そう!
岐阜市金宝町1-12 PORT-A 2F
金・土曜日 17:00〜23:00(L.O.22:00)
日曜日 17:00〜22:00(L.O.21:00)
※21:30以降の入店は予約制。
やまもと・しんいちろう 1975年生まれ。岐阜市で1876(明治9)年創業の老舗油屋「山本佐太郎商店」4代目。油のプロ。南山大学経営学部を卒業後、23歳で家業を継ぐ。業務用卸問屋としてさまざまな油や粉、調味料を取り扱い、現在では東海エリアを中心に約500店舗と取引を行う。年間300日は外食。岐阜グルメに詳しく、トークイベントなどでも活躍する。岐阜市旧中心市街地の通称「岐阜町」で空き家再生などに取り組む不動産業「岐阜まち家守(やもり)」社長も務める。









