2026年8月20日
岐阜大学
細胞外におけるヒアルロン酸分解の新たな制御機構を解明
本研究のポイント
・細胞外でヒアルロン酸※1を分解する酵素「Transmembrane protein-2(TMEM2)」の働きを調節する新たな仕組みを解明しました。
・ヒアルロン酸合成酵素「HAS」が同一細胞上に発現するときにTMEM2の分解活性は高くなり、他の細胞が発現するヒアルロン酸や細胞から遊離したヒアルロン酸に対する分解活性は限定的であることが明らかになりました。
・TMEM2の遊離ヒアルロン酸に対する活性制御には、ヒアルロン酸結合タンパク質である「CD44※2」と「LYVE-1※3」が関与することを明らかにしました。
研究概要
岐阜大学医学部附属病院泌尿器科の飛澤 悠葵准教授、矢野 文彬臨床助教、富岡 莉紗医員、古家 琢也教授らの研究グループは、米国カリフォルニアのSanford Burnham Prebys Medical Discovery Instituteの山口 祐教授らとの共同研究で、細胞膜貫通型ヒアルロン酸分解酵素であるTMEM2の新たな活性制御機構を解明しました。
肌のハリや保湿の有効成分として知られるヒアルロン酸は、細胞と細胞の間隙を満たす細胞外マトリクスの主要成分であり、組織の柔軟性、粘弾性を保つ重要な役割を担っています。ヒアルロン酸は、組織内において絶えず合成と分解が繰り返され、わずか3日ですべてが入れ替わるほど高速に代謝回転します。しかし、細胞外におけるヒアルロン酸分解がどのように調節されているかについては、十分に分かっていませんでした。
本研究では、TMEM2の酵素活性には空間的に制御されたメカニズムが存在すること、そのメカニズムにおいて、CD44またはLYVE-1を介した細胞表面でのヒアルロン酸の捕捉が効率的なヒアルロン酸分解に寄与することを明らかにしました。
本成果は、TMEM2によるヒアルロン酸分解が細胞周囲のグリコカリックス層および細胞外マトリクスの恒常性維持に重要な役割を担っている可能性を示すとともに、これらが関与するがんや希少疾患の新たな治療法開発へつながることが期待されます。
本研究成果は、日本時間2026年8月12日にFrontiers in Molecular Biosciences誌のオンライン版で発表されました。
研究背景
生体組織は様々な細胞の集合体として構成されています。この細胞と細胞の間隙は細胞外マトリクスと呼ばれる物質によって満たされており、細胞の移動や向き、機能的な分子の受け渡し、老廃物の排除など、組織を形成する上で多様な機能を担っています。この細胞外マトリクスの主要成分はヒアルロン酸と呼ばれる機能性糖鎖です。ヒアルロン酸は単純な2つの単糖の繰り返し構造をとり、200万ダルトンを超える巨大分子として生体内の多くの細胞から合成されます。合成されたヒアルロン酸には、様々な分解酵素が段階的に働き、わずか3日ですべてが入れ替わるほど高速に代謝回転します。ヒアルロン酸は、組織の柔軟性や粘弾性を支えるとともに、炎症や免疫応答など生体反応においても重要な役割を担っています。
ヒアルロン酸は細胞外に合成・分泌されるため、最初の分解は細胞外で起こります。研究グループはこれまでに、その役割を担う酵素として「TMEM2」を同定していました。しかし、試験管内での分解活性と生体内での分解活性に乖離があるなど詳細な分解調節機構については不明なままでした。
そこで本研究では細胞表面での分解活性を制御する補助分子の存在を含め、TMEM2の細胞レベルでのヒアルロン酸分解機構の詳細を検証しました。
研究成果
本研究ではまず同一細胞上にヒアルロン酸合成酵素HASとヒアルロン酸分解酵素TMEM2が発現する条件(Cis)と、HASおよびTMEM2がそれぞれ別の細胞に発現する条件(Trans)を比較しました。その結果、両者が同一細胞上に存在するCis条件において、TMEM2によるヒアルロン酸分解活性が著しく高まることを明らかにしました。
研究チームはこれまでに、ガラス上に固相化されたヒアルロン酸をTMEM2が分解することを報告していました。つまりTrans条件下におけるTMEM2を介した効率的なヒアルロン酸の分解には、ヒアルロン酸の移動性を制限するヒアルロン酸結合タンパク質の存在が必要であるという仮説を立てました。そこで、Trans条件下においてヒアルロン酸結合タンパク質であるCD44を同時に発現させ酵素活性への影響を検証しました。その結果、TMEM2とCD44を同一細胞に発現させることでTrans条件においてヒアルロン酸分解が顕著に高まることが明らかになりました。
CD44以外にもヒアルロン酸結合タンパク質としてLYVE-1, RHAMM, layilin, TLR2, ICAM-1, TSG-6が報告されています。最後に、これらのタンパク質がTMEM2の酵素活性を調節しうるかをTMEM2と共発現することで検証しました。その結果、リンクモジュールを有する膜タンパク質であるCD44とLYVE-1がTMEM2の活性制御に関与することが明らかとなりました。
今後の展開
ヒアルロン酸は細胞周囲のグリコカリックス層および細胞外マトリクスの主要成分であり、TMEM2の分解活性がこれらの恒常性維持に重要な役割を担う可能性が明らかになりました。がん組織や指定難病である間質性膀胱炎ではグリコカリックス層や細胞外マトリクスの異常が示されているため、がん悪性化、治療抵抗性獲得のメカニズムや難病の病態解明に貢献することが期待されます。
用語解説
※1 ヒアルロン酸
肌の保湿を促す成分として化粧水などに配合されるヒアルロン酸は2つの単糖(N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸)を1ユニットとして繰り返し連結した直鎖の糖鎖です。大量の水を保持し粘弾性を持つため全身の組織を支える機能を有しています。一方でその機能が物質の拡散や細胞の移動を制御する物理的な障壁となり、薬剤の効果や生体反応に影響を及ぼすことがわかっています。
※2 CD44
ヒアルロン酸に結合することが確認されている細胞接着分子の一つで、一部のがんではがん幹細胞マーカーとして使用されるなど、がんの進展や遊走に関与する膜貫通型タンパク質です。生体の多くの細胞で発現が見られ、組織に応じて分子量や結合親和性の異なるフォームを有することも特徴の一つです。
※3 LYVE-1
CD44と並んでヒアルロン酸結合が確認されている膜貫通型タンパク質です。主にリンパ節やリンパ管で発現し免疫細胞の遊走に関与します。
論文情報
雑誌名: Frontiers in Molecular Biosciences
論文タイトル: Regulation of TMEM2-mediated hyaluronan degradation by CD44 and LYVE-1
著者:Yuki Tobisawa1,2*, Fumiakira Yano1, Risa Tomioka-Inagawa1, Fumitoshi Irie3, Takuya Koie1, Yu Yamaguchi3
1 Department of Urology, Gifu University Hospital, Gifu, Japan
2 Center for One Medicine Innovative Translational Research (COMIT), Institute for Advanced Study, Gifu University, Gifu, Japan
3 Center for Neurologic Diseases, Sanford Burnham Prebys Medical Discovery Institute, La Jolla, California, USA.
DOI: 10.3389/fmolb.2026.1852012










