腰椎椎間板内に挿入された注射針

整形外科医 今泉佳宣氏

 今回は腰椎椎間板ヘルニアの治療法の中で、手術をしない治療法についてお話しします。

 腰椎椎間板ヘルニアの症状の特徴は坐骨(ざこつ)神経痛に代表される下肢の神経痛です。神経痛を和らげるために最初に行うのは内服薬による薬物療法です。かつては打ち身や捻挫によく使われる非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)が単独で使用されていました。2010年代以降に神経障害性疼痛(とうつう)に対する薬としてプレガバリンやトラマドール塩酸塩といった薬が発売され、単独ないしはNSAIDsと併用して使用されています。

 内服薬の効果が少ない場合は神経根ブロックという注射を行うことがあります。エックス線透視下にモニター画面を見ながら腰部神経根周囲に局所麻酔薬を注入します。この方法は痛みを軽減させるとともに、多くの神経根の中から痛みの原因となっている神経根を確認するという診断の意味もあります。残念ながら1回の注射で永続的に痛みを取り除くことは難しいのですが、効果を見ながら複数回注射を繰り返すことで痛みが軽減する場合があります。

 こうした治療法にもかかわらず下肢の疼痛が続く場合はどうしたらよいのでしょうか。かつては「内服薬や注射が駄目なら手術しかない」と言われてきました。もちろん現在でも手術をすることはありますが、最近では手術に踏み切る前の段階に位置付けられる治療法が出てきました。それは椎間板内酵素注入療法と呼ばれる方法です。

 18年8月にコンドリアーゼ(商品名ヘルニコア)という薬品が販売されました。これは椎間板内の髄核という成分を選択的に分解する酵素です。この酵素を椎間板内に注入して椎間板の内圧を減少させることで、椎間板ヘルニアの症状を軽減するというのが椎間板内酵素注入療法の原理です。神経根ブロックと同様にエックス線透視下にモニター画面を見ながら椎間板内に針を挿入し酵素を注入します。約15分で終了しますが、注入後の体調の変化がないかを観察するために1泊入院します。その治療成績については、酵素注入を受けた人の7割が注入後3週間以内に症状が軽減したという報告があります。

 椎間板内酵素注入療法は全ての椎間板ヘルニアの症例に行えるわけではなく、また薬剤アレルギーの問題から一生に一度しか注入できないといった問題点はありますが、手術を回避できる可能性のある画期的な治療法といえます。

(朝日大学保健医療学部教授)