国名の入ったプラカードを手にウクライナ選手団を先導する市橋滋利さん=昨年7月、東京都新宿区、国立競技場(ウクライナ五輪委員会のHPより)
ウクライナ選手団との交流に思いをはせる市橋滋利さん=瑞穂市田之上

 岐阜県瑞穂市田之上のバラ切り花農家、市橋滋利さん(52)は、昨夏の東京五輪の開会式で、ウクライナ選手団を先導する「プラカードベアラー」を務めた。ロシアによるウクライナ侵攻のニュースを見るたびに心を痛めている。「母国のように大切に思い、国名のプラカードを運んだ。平和への思いが一瞬たりとも途絶えたことはない」。五輪での選手団との交流を思い出しながら戦争終結を願っている。

 市橋さんは東京五輪の聖火リレーのランナーを務めており、加茂郡八百津町を走った。第2次世界大戦でユダヤ難民を救った外交官杉原千畝ゆかりの地を走った当時を「バラの花言葉である『愛と平和』を胸に抱いて駆けた」と振り返る。

 聖火リレーのランナーでつくるSNS(交流サイト)のコミュニティーに入っていた市橋さんは、五輪の開会式で国名の入ったプラカードで選手団を先導する「プラカードベアラー」を知り、応募したところ選定された。205の国や地域、難民選手団の中から担当したのは、ウクライナを含めた4カ国だった。市橋さんは「まぶしい視線を浴び、ウクライナを母国のように思いながら先導した」と語る。

 大役を務める最中に、ウクライナ選手団にいた男性から贈られた「宝物」がある。五輪では、各国のバッジを交換し合う「ピントレーディング」と呼ばれる文化が続いている。

 東京五輪では新型コロナウイルス対策でスタッフや選手団との密な交流が制限される中、同国選手団の男性がアイコンタクトで交換の合図を送ってきた。市橋さんはバッジを持ち合わせていなかったが、男性は返しは必要ないと身ぶりで示し、惜しみなく自分のバッジを差し出した。「言葉を交わさなくても通じ合える。ウクライナ人の優しさを感じた」と懐かしむ。

 ロシアによるウクライナ侵攻で、罪のない市民が攻撃される中で、市橋さんは憤りと無力感を感じている。「あの特別な舞台で愛と平和への誓いを新たにしたのに、今は祈ることしかできない」と言葉を詰まらせる。

 五輪の開会式の前、妻と息子2人に約束したことがある。「プラカードを持った国へ君たちを連れて行くよ」。停戦が実現し、平和な中でウクライナの人々と交流できる日を待ち望んでいる。