各務原市に住む男性が受け取った、消防団への協力金の支払いを求める文書(男性提供、画像の一部を加工しています)
自治会の役員が、協力金の徴収を強制から任意に変更すると住民に伝える文書。回覧後、消防団側から抗議があった

 「消防団に入っていないからと、団員から年間2万円の支払いを求められた。納得できない」―。岐阜県各務原市の男性から、岐阜新聞社に情報が寄せられた。取材を進めると、同市では複数の地域で未入団の男性から「協力金」と称する出不足(でぶそく)金が半ば強制的に集められている実態が分かってきた。

 自治会が清掃などの共同作業に参加できない住民に支払いを求める出不足金。各務原市消防団は、町や校区ごとに約10人の団員でつくる組織「班」で構成しており、男性から出不足金を徴収したのは地元の班と自治会だ。男性によると昨年6月、自治会長と班の団員が自宅に来て、半年分の1万円の支払いを求められた。12月にも集金があり、いずれも男性はその場で支払った。

 男性が受け取った「消防団協力金のお願い」と書かれた自治会長と班長の連名の文書には「入団年齢の方々にご協力をいただき、消防団活動費として活用している」と書かれていた。

◆「入団しない人への制裁だ」憤り

 男性が「払わなければいけないのですか」と尋ねると、団員らはそうだと答えたという。男性は「入団しない人への制裁だ」と憤る。

 本紙の調べでは、市内には他にも出不足金を集めている班があった。稲羽地区のある町では、自治会が地元の班に入団していない22~35歳の男性がいる世帯から年間2万円を集め、班に渡していた。

 消防団は市が組織する非常備の消防機関で、団員の報酬や手当は条例で定められ、団の消耗品や物品の費用は市が予算化している。消防団員は非常勤特別職の地方公務員に当たり、団員が寄付金を受け取る行為は違法性をはらむ。市消防団条例でも、職務に関する金品の受け取りや寄付金を募る行為を禁止している。

 取材に対し、市消防団の木野村文彦団長は「昨年、稲羽地区で出不足金を集めていたため、全分団長に春と年末の2度、出不足金徴収の禁止を徹底するよう通達を出した」と釈明。市消防本部の横山元彦消防長は「職務の活動費として徴収しているのであれば問題。事実関係を調べる」と話している。

 消防行政に詳しい関西大の永田尚三教授は「団員が市から報酬を得る公務員である以上、住民から出不足金という寄付金を受け取ることは違法と見なされる可能性がある。ましてや強制的な集金は時代錯誤だ」と指摘した。

◆団員確保へ残る慣習

 各務原市消防団が入団していない男性に出不足(でぶそく)金を科している問題。市内では他にも複数の消防団組織が、地元自治会から毎年数十万円の寄付金を得ていることが、本紙の取材で明らかになった。末端組織の「班」で続く慣習で、市も黙認しているのが実態。人口減少や高齢化を背景に、団員の確保に苦労している班では支払いを強制する傾向もあるが、専門家は逆効果だと指摘する。

 住民から消防団への寄付金は、同市では多くの地域で「協力金」と呼ばれる。関西大の永田尚三教授(消防行政)によると、消防団の多くは有志の自治組織がルーツで、住民が飲食や金銭を提供して慰労していたが、消防団として法整備された後も慣習として残ったとみられる。

◆消防本部「地域活動へのねぎらい」

 地方公務員である消防団員の年間報酬は3万6千円ほどで、消火活動の役割に加え、自治会の防災訓練の支援や祭りの巡回などにも無報酬で協力している。市消防本部は協力金について「職務ではなく地域活動へのねぎらい」として住民が自ら渡していると解釈、黙認しているのが実情だ。

 同市の丘陵地に戦後開発されたある住宅団地では、隣町にある消防団の班に自治会が会費から毎年20万円の協力金を支払っている。地元に消防団がないためで、住民によると団地ができて間もない約40年前に消防活動を代行してもらう謝礼として始まったという。

 自発的に協力金を渡してきた地域がある一方、未入団の男性に出不足金を求めたり、全世帯に一律で科したりと、支払いを半ば強制している地域もある。稲羽地区のある自治会は入団していない男性に科す2万円に加え、対象年齢の男性がいない全ての世帯からも一律2千円を戸別訪問して徴収、合計40万円を毎年班に渡していた。

 自治会は本年度、ルールを見直し、住民からの任意の寄付にしたが、消防団側からは協力金の額が現状より減った場合、解散の恐れがあるとして強い抗議があったという。

 新興住宅が密集する鵜沼地区では、5千世帯から約10人の班一つをつくる一方、古くからの集落や農地が残る稲羽地区は班の数が多く、およそ100世帯で一班を構成するため、団員確保が難しい。そのため小規模な地域が支える班ほど、協力金に依存する体質から抜け出せないでいる。

 この自治会の役員は「寄付を強制するのはおかしいと思うが田舎なので言い出せない雰囲気がある。消防団の偏在のしわ寄せを住民が受けている」と訴える。

 市消防団は偏在の原因を「1963年に4町が合併して市が誕生した時の編成を現在に引き継いでいるため、住民数の実態とずれが生じている」とし、改善が必要としている。

 永田教授は「消防団員の減少には複合的な要因がある。ペナルティーを科すなど強制する行為は若い人が最も嫌う手段。結果として入団しなくなっている側面もあるのでは」と指摘する。

 ドイツでは幼少期から消防団活動に参加させ、次世代の育成をしているとし、「日本も15歳までが入る『少年消防クラブ』がある。クラブと消防団の交流を増やし、18歳になったときに入団へとつなげる取り組みは自治体としても可能だ」と話した。

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