兵庫からJRAに移籍し、活躍するベテランの小牧太騎手(中京競馬場)

京都競馬場で行われたアンカツさんの引退セレモニーで並ぶ小牧太騎手(右)

 「笠松にも、こんなレースがあったらなあ」と思える光景が、テレビ画面から目に飛び込んできた。台風21号による停電や投票システムの障害で、開催が3日間中止された園田競馬場。復旧後の14日に開かれたのは「第7回 小牧太カップ」。兵庫競馬出身でJRAに移籍した小牧太騎手にとって、古巣の園田に恩返しの思いが込められた冠レース。表彰式での勝利ジョッキーとのやり取りがほほ笑ましかった。

 6連勝中の1番人気馬に騎乗したのは、昨年273勝で全国リーディングを奪取した下原理騎手。笠松でもおなじみで、7月のサマーカップをエイシンバランサーで優勝。小牧太カップでも8馬身差で楽々逃げ切り勝ち。ウイナーズサークルで待っていたプレゼンターの小牧騎手は、「いつもあんな強い馬に乗っているのか。俺にも回してくれよ」と、最近勝利から遠ざかっており、ちょっぴりうらやましそう。下原騎手は「偉大な先輩がこういう特別レースをつくってくれて、勝ててうれしいです」と、記念レース制覇を光栄に感じていた。

 小牧騎手といえば、9年連続で兵庫リーディングに輝き、地方競馬からアンカツさん(安藤勝己元騎手)の背中を追って2004年にJRAへ移籍。これまで地方で3434勝、中央で881勝を挙げてきたが、今年は中京での落馬事故で負傷し、戦線を離脱していた。51歳になって騎乗数も減り、今年は5勝どまり。小牧太カップ表彰式のインタビューでも、復帰後の勝利を期待され、「全力投球で、ウイナーズサークルへ行きたいです」と本音をチラリ。自分の冠レースが「いつまで続けられるか分からないが」としながらも、ファンの温かい声援に応えていた。

今年のオグリキャップ記念表彰式で、優勝騎手へのプレゼンターも務めたアンカツさん(右)

 「オグリの里」では昨春、「名手の里にアンカツ記念を」と、笠松競馬をより盛り上げる冠レースの新設を提言したことがあった。今年のオグリキャップ記念で予想会&トークショーや優勝騎手へのプレゼンターも務めたアンカツさん。お盆開催ではミルコ・デムーロ騎手らも笠松でのトークショーに呼ぶことができた。重賞レースが減少して、物足りなかった笠松ファンには朗報もあった。賞金削減策で休止されていた2月のウインター争覇と3月のマーチカップが、馬券販売の好転で復活。5月には、ぎふ清流カップが新設され、毎月1回は重賞が楽しめるようになった。「厩舎で強い馬を育ててもらうためにも、賞金の高い重賞レースを」という主催者サイドのやる気が十分に伝わってきた。

 地方競馬を中心に馬券販売の右肩上がりが続き、競馬ブーム再燃の兆し。インターネットでの馬券販売の恩恵は大きいが、入場者は減少傾向で、中央との交流重賞で勝てるスターホースは、なかなか生まれない現状。そんな中、全国の競馬場では、集客策の一環として、このところ「ファンにもっと競馬場へ足を運んでいただき、騎手との触れ合いも楽しんでもらおう」と、地方・JRA交流や地方単独でのジョッキー戦が花盛りになっている。

 世界の名手が腕を競う「ワールドオールスタージョッキーズシリーズ(WAJS)」は最高峰の祭典。地方騎手がたった1枚の本戦切符を争う「地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ」には、各地のリーディングが集結した。笠松からは佐藤友則騎手が挑んだが、8位で本戦進出の夢はかなわず。初代「地方騎手ナンバーワン」の座をつかんだのは、北海道の桑村真明騎手。札幌でのWAJS本戦ではJRAのルメール騎手が総合優勝を飾り、武豊騎手が2位。桑村騎手は11位に終わった。

 7月には、盛岡で「ジャパンジョッキーズカップ」があり、個人戦とチーム戦(JRA、地方=EAST、WEST)が行われ、愛知の岡部誠騎手も挑戦。今月12日には園田で2000勝以上の地方、JRAの名手による「ゴールデンジョッキーカップ」が開かれ、大井の的場文男騎手らも参戦。佐賀の山口勲騎手が総合Vを飾った。

高知「福永洋一記念」表彰式での宣言通り、ワグネリアンで日本ダービーを初制覇したJRAの福永祐一騎手(競馬ブック提供)

 地元騎手限定で行われている高知の「福永洋一記念」は今年で9回目。ナイター競馬で行われ、表彰式に登場した車いす姿の洋一さん(元JRA騎手で9年連続リーディング)をそっと支える長男の祐一騎手。花束を贈呈された洋一さんには笑顔が広がり、競走馬を愛する親子の絆に、ほのぼのとした温かい空気が流れた。

 福永洋一記念で2度目の優勝となった宮川実騎手は「洋一さんと祐一さんの前で勝てたことがうれしいです。高知競馬を盛り上げていきたい」と笑顔。祐一騎手は「(来年は10年目となり)定着してきて、良かった。父も達成できなかった日本ダービーを(ワグネリアンで)勝ちたいです」と優勝宣言も飛び出し、3週間後には鮮やかな手綱さばきで父子の悲願を達成させた。

 川崎では毎年1月に佐々木竹見カップが開かれている。「地方競馬通算7151勝」の記録は的場文男騎手に破られたが、川崎の鉄人の記念レースは健在。何年後かに大井の帝王をたたえる「的場文男カップ」も創設されるに違いない。

ヤングジョッキーズシリーズ笠松ラウンドでファンに花束をプレゼントする水野翔騎手ら

 若手騎手が騎乗技術を磨く「ヤングジョッキーズシリーズ」では、西日本地区は佐賀ラウンドを終えて、笠松の渡辺竜也騎手(佐賀で3着、10着)が総合4位。けがで離脱した水野翔騎手が6位。2人とも10月10日の名古屋ラウンドが最終戦で、上位に滑り込んでファイナル進出を果たしたい。今年1月に行われた高知での全日本新人王争覇(地方、JRA)では、名古屋の加藤聡一騎手が新人王に輝いた。来年1月には、渡辺騎手ら笠松勢の挑戦も期待される。女性騎手が競う「レディスヴィクトリーラウンド」は今年も開催が決まった。名古屋の宮下瞳騎手、木之前葵騎手、高知の別府真衣騎手らが火花を散らす。

 「馬で買おうか、それとも騎手で買おうか」。予想するファンも、安藤兄弟や愛知勢の対決に胸を躍らせたことがあった。笠松で04年まで「東海オールスタージョッキー」が開かれていたのだ。笠松と愛知のリーディング上位の騎手が激突し、ファンの注目度も高かった。第1回(1981年)は天才ジョッキー・坂本敏美さん(愛知)が制覇。歴代の優勝者には坂口重政、浜口楠彦、仙道光男ら懐かしい笠松の騎手たちの名前も並び、追い込み馬で豪腕を発揮した印象が強かった。現在では、名古屋で「東海スーパージョッキーズ」として開催されている。

 笠松が地方のリーダー格だった1990年代、「金沢・笠松ジョッキークラブ競走」や「北海道・笠松ジョッキークラブ競走」も開催されていた。冬場の人馬交流で来場した雪国からの招待騎手らと腕を競った。金沢では場外発売が開始され、東海・北陸の結び付きを強めた。馬産地の北海道とも2歳馬の供給、転入で絆を深めてきた。93年には世界の女性騎手が参戦した「クイーンジョッキーシリーズ」を笠松で開催。吉岡牧子騎手(益田)や19歳の中島広美騎手(笠松)らが挑戦した。地元騎手限定では「マックル杯笠松ジョッキーチャレンジ」や「ヤングジョッキー競走」なども行われた。


笠松競馬を支える所属騎手たち。新たなジョッキー戦でファンを楽しませてほしい

 かつては30人もいた笠松所属騎手。現在では15人に半減してしまったが、北陸・東海・近畿地区交流のジョッキー戦など、ブロック単位での連携が実現できれば、ファンも馬券を買いたくなるレースになりそうだ。園田で「小牧太カップ」が続いているのなら、笠松では「安藤勝己カップ」または「アンカツ記念」が開かれてもいいのでは。もちろん、古巣への協賛レースとなり、アンカツさんの協力が必要となるが...。名手のメモリアルレースやジョッキー戦の復活、新設を期待したい。騎手サイン会やオークションなどのファンサービスにも努め、地方競馬を盛り上げていけるといい。