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オグリの里

笠松競馬の元騎手ら「当たってしまう馬券」購入

立ち上がれ、あしたのために=その6



笠松競馬の元調教師と元騎手3人が馬券購入の疑いで書類送検された。場内にファンの歓声が戻るのは5月以降になった

 「当たってしまう馬券」を購入。元手の30万円から転がし続けて、約490万円に増やしていた。

 昨年6月、岐阜県警が笠松競馬の元調教師と元騎手3人の自宅などを家宅捜索した馬券不正購入事件で、捜査がようやく終結した。逮捕者はなく、計5人を書類送検。現役の騎手ら関係者約30人も取り調べていたが、購入事実は確認できなかった。一方、所得隠し・馬券購入問題で第三者委員会の調査は進まず。レースは4月末まで、7開催連続での自粛が決まった。4月29日に予定されていた笠松の看板レースであるオグリキャップ記念は中止になってしまった。

 岐阜県警は10日、元調教師(36)と元騎手3人=いずれも羽島郡岐南町=を競馬法違反(馬券購入)の疑いで書類送検した。このうち元騎手(38)は、馬券購入のための郵便貯金通帳1通を知人から譲り受けたとして、犯罪収益移転防止法違反の疑いでも書類送検された。

 一昨年3月ごろ、レースを主催する岐阜県地方競馬組合から「元調教師に競馬法違反の疑いがある」との情報提供があり、県警が捜査していた。競馬組合としては、不正行為を排除し公正競馬を確保するため、身を切る覚悟で警察に捜査を要請した。4人は免許が更新されず、事実上の引退となった。

昨年6月19日、メインのクイーンカップで笠松所属馬が地元若手騎手で重賞Vを飾った。一方、この日の第4レースと前日の第5レースでは元騎手らが馬券を購入する不正行為が横行していた

 ■コロナ対策医療従事者支援レースで馬券購入

 元騎手らの馬券購入の手口は悪質で手広かった。把握できた2019年9月以降だけでも、4人は笠松競馬で行われた計191レースで馬券を購入し、2000万円近い収益を上げていた。1日2、3レースで不正に馬券を購入(1レース10万円ほど)していたとみられ驚きだ。「麻薬のようで、一度味わった甘い汁はやめられない」(元調教師)とかで、本業での賞金・手当以上の稼ぎにもなっていた。

 公営競馬では「公正の保持」が大前提だが、4人は騎手や調教師として最低のことをやってしまった。多くのファンは「健全なギャンブル」と信じて馬券を買っており、信頼は失墜した。「(自ら騎乗もしており)着順にも影響があったのでは。もう笠松のレースは買わない」と怒る気持ちは当然だ。

 書類送検容疑は、4人は共謀し昨年6月18日、笠松第5レースで43万2800円分の馬券を購入した疑い。また、元騎手3人は共謀し、同じレースで別に8万円分の馬券を購入したほか、翌19日の笠松第4レースで10万4600円分の馬券を買った疑い。県警はほかに、一昨年9月ごろ、元騎手(38)に郵便貯金通帳を譲渡したとして、知人の会社員(39)=岐阜市=を犯罪収益移転防止法違反の疑いでも書類送検した。調べに対し、5人は「小遣い稼ぎだった」などと全員が容疑を認めている。

 昨年6月18日第5レースといえば、新型コロナ対策医療従事者支援レースとして実施された。6月に笠松で開催された全ての第5レース(7日間)を支援競走とし、その売り上げの一部を岐阜県のコロナ対策寄付金受付窓口へ寄せた(308万円=売得金の1%相当額)。ファンの善意が詰まった心温まる第5レースで、馬券もよく売れたが、それを踏みにじる不正行為になってしまった。

 このレースでは書類送検された元騎手2人が騎乗し、元調教師の管理馬も出走していた。9頭立てで3番人気、1番人気、4番人気の順でゴールし、3連単は3990円の配当。前4頭と後ろ5頭が大きく離れ、2番人気(単勝2.0倍)の馬は終始後方のまま6着に終わり、「八百長では」とのうわさも流れていた。

 県警によると、元調教師と元騎手3人は、元調教師と同居する女性名義の口座を使い、インターネットの馬券購入サイトに登録。笠松競馬で行われた183レースで約1600万円分の馬券を購入し、約1500万円の収益を得ていた。元騎手の3人は、知人名義の口座を使い同サイトに登録し、笠松競馬のレースの馬券を繰り返し購入。当たり馬券の配当金で、元手の30万円を約490万円に増やしていた。4人は内部情報からレースの着順まで推測できたようだ。

装鞍所エリアの騎手控室前

 ■内部情報、チラシの裏に書いて渡した

 長年、笠松競馬を見てきたが、主催者サイドの身になれば、本当に苦労が多い競馬場だ。存続を勝ち取った2005年以降も「単年度赤字で即廃止」という綱渡りの経営。大半が借地のため、地主への賃料問題、土地の明け渡し訴訟などで苦境に立たされ続けてきた。敷地は狭く、日本で唯一「パドックが内馬場にある」ことが大きな特徴でもある。

 装鞍所エリアでは検量室、騎手控室、食堂などがあり、調整ルームも隣接。レースの前後には騎手、調教師、厩務員らの出入りが多い。騎手はレース開催中、前日から最終日まで調整ルームに缶詰めになるが、不正防止のため、携帯電話などの持ち込みはできない。外部とのメールなどでの連絡が遮断されるはずだが、競馬組合のチェックは甘かった。

 元騎手3人は自身が騎乗するレース前などに「馬の調子が悪い。勝負にならない」などの内部情報を交換。馬券の買い目を決め、チラシの裏に書いて、購入する元調教師に渡していた。元調教師はインターネット投票で馬券を購入したという。

 各調教師は装鞍所エリアへ携帯電話を持ち込めた。通常は厩舎から移動する管理馬の様子をチェックしたり、馬主ら関係者との連絡用に使用するが、元調教師はエリア内を動き回りながら不正な情報を得て、馬券購入サイトで投票することもできた。ネット投票なら1分もあれば購入できてしまい、元騎手もレースの合間などに購入は可能だった。騎手控室では、みんなでレース映像をチェックしながら明るく騒ぐ姿が印象的だっただけに、非常に残念だ。
 
 元調教師は、現役時に馬券を購入していた事実を認めて謝罪する動画を昨年10月、動画サイトに投稿。騎手控室などでは、競走馬の体調など関係者しか知り得ない情報が飛び交っていたとして「内部情報があれば、ある程度(馬券を)買えば当たってしまうのは事実」と説明。一方で「騎手が故意に順位を操作することはなかなかできない」と八百長は否定していた。

 また「自身が騎手だった6、7年前の笠松競馬では、携帯電話は何のチェックもなく、ポケットに入れたまま持ち込んでいた」と明かした。関係者によると、別の調教師とその親族が馬券の購入で計1億円を超える利益を上げていた例もあるという。
 
 笠松競馬では8~10頭立てのレースが多いが、そのうち勝負になるのは4、5頭か。残りは出走手当を稼ぐため付いて回ってくるだけ。人気上位で馬券圏外に消えそうな馬が事前に1、2頭分かっていれば、馬券は当てやすくなる。残りの3、4頭の組み合わせに絞って購入すれば、やはり「当たってしまった」ということか。

 元騎手らの引退後、競馬組合は不正防止のため、騎手が調整ルームに入る際に金属探知機で手荷物検査をしたり、機器の通信を遮断する装置を導入したりするといった対応を取った。NAR(地方競馬全国協会)の指導もあって、調教師の携帯電話使用は一定の制限が加わり、報道関係者の取材エリアも装鞍所外に指定された。

4月開催も自粛になった笠松競馬。ファンの信頼を取り戻す公正な競馬でレース再開を目指したい

 ■3月中にも第三者委の聞き取り調査結果公表

 古田肇知事は県議会一般質問で「第三者委が3月中にも関係者への聞き取り調査の結果を公表する方針」と明かした。さらに「公営ギャンブルは公平、公正が確保されて初めて成り立つが、組合の調査が甘かった。第三者委の報告を受けて、確固たる再発防止策をまとめ、レースの公正を確保する仕組みを構築していく」と強調した。

 現在開催を自粛しているレースも「スケジュールありきではないが、できるだけ早く判断したい」と再開への考えを示した。一方、県議会本会議では、第三者委メンバーの弁護士と税理士が笠松競馬の調教師と業務上の関わりがあったとして、調査の中立性を懸念する声が県議から上がった。古田知事はヒアリング時にはその場から外れているなどとして理解を求めたという。第三者委の足並みがそろっておらず、調査を長引かせているようだ。

 ■「一日も早く再開を」「クリーンで明るいニュースを」

 レースの空白は続き、4月末まで3カ月以上になる。現場では調査結果による処分や生活への不安、やり場のない怒りを募らせている。ファンからは、クリーンな競馬場に生まれ変わることを願う切実な声が聞こえてきた。

 厩舎関係者は「今回の問題は現場の不祥事ですが、2004年に廃止を提言されてから、こつこつと真面目に向き合って馬を引いている人たちを見ていると、一日も早く再開することを望みます。第三者委の内容が分からないので、みんな不安な毎日が続いています」と悲痛な訴え。
 
 笠松競馬ファンは「こんな事態を招いたことは恥ずかしいし悲しいです。事件に関わった人や競馬組合は、しっかりと受け止めてもらいたい。うみを全部出し切ってクリーンだと分かってもらえないと、ファンは離れてしまう。笠松競馬の名が明るい話題でニュースに出ることを願っています」と。また「応援してくれるファンをこれ以上悲しませないように、関係者には今まで以上の努力で取り組んでほしい。事件とは無関係の真面目な人たちがつらい思いをしないように」と笠松競馬の再生を強く願っている。

 今後は第三者委の調査結果を受けた主催者の「落としどころ」が注目される。笠松競馬に関わる全てのホースマンは、一丸となって改革努力を続け、不正一掃に取り組むことが急務。「黒いカネまみれ」でどんよりとした重い空気と吹き荒れる逆風を切り裂いて、レース再開を目指したい。