フルゲート12頭の笠松競馬。騎手不足でゲートが埋まらなくなる

 ここは騎手らの馬券不正購入で「非常事態」が続く笠松競馬場。現役騎手は全国最少の15人だが、「黒い霧一掃」のため、さらに5人減って10人になりそうだ。今後レースが再開されても、フルゲート(12頭立て)に満たない騎手数になってしまう。

 レースは4カ月間も中止。所属馬は他地区流出で大幅に減少しているが、騎手不足はもっと深刻になり、10頭立てのレースも厳しくなる。

 競走馬は休養十分で走る気満々だろうが、騎手抜きの「カラ馬」で走らせるわけにもいかず、少頭数でのレースになる。競馬組合では再発防止策をまとめ、クリーン化を進めていくが、再びゲートが開いても人馬の減少で厳しい運営になる。当面は5~9頭立てのレースが増えそうだ。

 ■現役騎手は「関与停止」処分に(ばんえい事件では「停止2年」)

 今回の事件では、第三者委員会の報告書の内容に応じて処分委員会が開かれ、該当者の聴聞・弁明などを経て、4月中に行政処分が発表される。

 報告書では、処分の対象者が絞り込まれた。騎手では昨年8月に引退扱いになり、競馬法違反の罪で略式起訴された3人に対しては「最も厳しい処分」で、競馬に一切関係することができない「競馬関与禁止」となる。

 現役騎手では馬券購入グループに加わった2人に「非常に厳しい処分」、情報提供の見返りに現金を受け取った3人には「騎乗停止以上の重い措置」または「少なくとも騎乗停止の処分」との判断。

 この結果、計5人の現役騎手が「競馬関与停止」(うち1人は「騎乗停止」の可能性も)になるとみられる。関与停止期間は今後決められるが、1~3年程度か。

 組合の処分では「関与禁止」が最も重く、「関与停止」、「騎乗・調教停止」、「戒告・賞典(レース賞金・手当)の停止」と続く。組合処分とは別に、NAR(地方競馬全国協会)による騎手、調教師免許の取り消し処分もあり、昨年8月、笠松競馬の騎手3人と調教師1人の免許が更新されず、「引退」となった。

 5年前、ばんえい競馬(北海道帯広市)では騎手1人を含む13人が馬券購入の疑いで書類送検された事件があった。このうち10人が競馬法違反罪で略式起訴され、帯広簡裁は罰金40万~20万円の略式命令を出した。帯広市は元厩務員4人を「関与停止3年」、元騎手1人と元厩務員5人を「関与停止2年」とする行政処分を決めた。

 騎手による馬券購入では、笠松の事件が全国で2例目になった。調教師の行政処分では、引退した1人が「関与禁止」、現役の3人が「関与停止」になる。またセクハラ行為を含めて1人が「調教停止以上の重い処分」。このほか、該当騎手が所属する厩舎の調教師7人も指導・監督不十分で戒告・賞典停止になる。

人馬を応援するファンでにぎわった一昨年の東海ゴールドカップ

 ■騎手不足、他場からの「助っ人」が頼り
 
 笠松競馬では5年前、所属騎手が一気に3人も減って「13人」になったことがあった。益田から高知を経て笠松に移籍してきた花本正三騎手(現調教師)と、笠松生え抜きの湯前良人騎手(現調教師)がともに調教師に転身。デビュー3年目だった藤田玄己騎手は引退した。その前年には尾島徹騎手が調教師に転身(引退)していた。
 
 今回はそれより少ない「10人」になるため、同じ東海公営の名古屋の騎手ら他場からの「助っ人」のフル参戦が期待される。「騎乗機会が増えるなら」と移籍を希望してくれる騎手があれば一番いいが、期間限定騎乗での参戦も大歓迎だ。ただ、コロナ禍もあるし、イメージダウンが著しい笠松に来てくれるかどうか...。

 現役騎手が3分の1も減ることになるが、ファンからは信頼回復を期待する声が届いた。

 「競馬学校での厳しさに耐え、騎手になる夢をかなえたのだから初心を忘れずに。ファンに感動を与える仕事でもあり、信頼回復のため一鞍一鞍の騎乗を大事にしてほしい」と激励。また「笠松競馬ファンだから、今回の件は怒ったり悲しんだりしています。もう二度とこういう思いをさせないでほしい。残った人もいばらの道かもしれないが、ファンを笑顔にする競馬を楽しみにしています」と騎手たちの背中を押し、競馬場の再生を願っていた。

 ファンあっての競馬場。2020年度の笠松の馬券発売額は290億6500万円(前年度比7.3%増)で8年連続の黒字を確保した。レースは5開催23日間も中止されたのに、経営状況は右肩上がりで救いとなった。競馬組合では既に新年度予算案を発表しており、歳入では馬券収入300億円余りを見込み、5月中にはレースを再開したい意向である。

東海ダービー馬のニュータウンガールは愛知に移籍している

 ■ニュータウンガールなど有力馬移籍

 それでも事件では、馬券を買って応援してくれたファンを裏切ってしまった。「レースに愛馬を出走させられない」と、厩舎も馬主さんの信用を失った。4月いっぱい、組合から出走手当などの補償はあるが、所属馬は1月以降100頭ほど減って424頭(4月15日現在)になった。昨年の東海ダービー馬・ニュータウンガールなど有力馬の多くは他地区に移籍。笠松の厩舎に残っているのは休養・故障馬やレースで勝負にならないような馬も多いという。
 
 こんな厳しい状況にあっても、笠松の厩舎への預託をずっと続けている「笠松愛」あふれる馬主さんもいる。馬がいなくなっては競馬が成立しないのだから、ありがたいことだ。競馬場では朝の調教が続けられているが、軽めの運動程度。馬たちは休養十分でレースではガラリ一変、まさかの激走を見せてくれるかも。他場へ移籍した有力馬は、笠松再開後に復帰してくれるといいが...。

 ■笠松有力馬の転出、在籍状況(4月15日現在)

 【転出馬】
 ☆ニュータウンガール(牝4歳)東海ダービーVなど重賞5勝 =井上孝彦厩舎→愛知・角田輝也厩舎
 ☆ニューホープ(牡5歳)19年岐阜金賞V、東海ゴールドカップV(20年2着)=田口輝彦厩舎→高知・宮川浩一厩舎
 ☆フーククリスタル(牡3歳)ライデンリーダー記念V=井上孝彦厩舎→愛知・錦見勇夫厩舎
 ☆タイセイプレシャス(セン馬9歳)オータムカップV=後藤佑耶厩舎→兵庫・長南和宏厩舎
 ☆ユノートルベル(牝5歳)=トウホクビジンの子=花本正三厩舎→愛知・桜井今朝利厩舎

 【在籍馬】
 ☆ダルマワンサ(牡4歳)岐阜金賞V=田口輝彦厩舎
 ☆シャドウチェイサー(セン馬9歳)オータムカップV=川嶋弘吉厩舎
 ☆ボルドープリュネ(牝4歳)クイーンカップV=笹野博司厩舎
 ☆ナラ(牡5歳)佐賀サマーチャンピオン(GⅢ)6着=湯前良人厩舎

昨年、笠松競馬でデビューした長江慶悟騎手と深沢杏花騎手。候補生時代には笠松で実習に励んだ

 ■若手騎手は騎乗機会が増えチャンスにも

 レースが再開されても苦難は続くが、事件と無関係だった若手騎手にとっては、騎乗機会が増えるチャンスにもなる。昨年は4月の深沢杏花騎手に続いて、10月には長江慶悟騎手がデビュー。与えられた騎乗馬の能力をいかに引き出して、ベストパフォーマンスを発揮させるか。「減量騎手」の恩恵を生かした思い切ったレース運びで結果を残せば、有力馬への騎乗も増えるだろう。現在、25歳以下の騎手は東川慎、渡辺竜也、水野翔騎手を含めて計5人。ヤングパワーを爆発させて、競馬場のピンチに立ち向かってもらいたい。
 
 若手騎手への刷新は再生・変革にもなる。昭和の覚醒剤・八百長事件(1975年)では11人の騎手が逮捕されたが、翌年には大勢の新人がデビューし、フレッシュな風を競馬場に吹き込んだ。4月に川原正一騎手、10月には安藤光彰・勝己、浜口楠彦、仙道光男騎手らが加入。笠松競馬のその後の黄金期を築いた面々で、頼もしい存在になった。来年以降、「新生・笠松」でも新人騎手のデビューが増えれば、将来のエース候補が出現するかもしれない。

 全国の地方競馬では、インターネット販売の強化で売り上げアップが続く。20年度の総売得金額は前年度比で3割増の9122億円で、29年ぶりに9000億円を超えた。コロナ禍による「巣ごもり生活」で競馬ファンによる在宅ネット投票が大幅増。勢いそのままに各地で新年度開催がスタートしたが、笠松競馬だけがゲートインもできず、関係者は歯がゆい思いが続いている。

 時間が止まったまま「廃虚化したテーマパーク」のような笠松競馬場。レースが再開されても「笠松の馬券はもう買わない」というファンも多いだろうが、健康ウオークを兼ねて、競馬場通いを長年続けてきたオールドファンは再開を待ち望んでいるはずだ。観客入りレースが条件となるが、ファンと人馬との距離がすごく近い競馬場でもある。今回の事件では怒りもあるだろう。疑惑が晴れて?生き残った騎手たちにもよく聞こえる「きつーいやじ」を飛ばしてくれることだろう。