整形外科医 今泉佳宣氏

 来年2020年は、東京でオリンピックが開催されます。オリンピックに向けて、トップアスリートと言われる一流競技者が、過酷な練習をしていることが報道されます。アスリートにとって練習は必要ですが、過度の練習による無理がたたって体調を崩さないか心配になることがあります。

 近年、スポーツ選手の健康問題の一つに女性アスリートの骨粗しょう症があります。骨粗しょう症というのは、骨がもろくなることです。骨粗しょう症と聞くと中高年の女性に多い病気と考えられ、10代から30代ぐらいの女性アスリートに生じることは想像がつきにくいかもしれません。しかし実際には、骨粗しょう症に伴う脚の疲労骨折に苦しむ女性アスリートがいます。

 なぜ若い女性アスリートが、骨粗しょう症になってしまうのでしょうか? 一番問題なのは十分な栄養の取れていない食生活です。とりわけ持久系と言われる陸上長距離や、審美系といわれる体操や新体操の選手は、無理なダイエットをすることがあります。カルシウムなどの栄養が不足していれば、骨がもろくなることは容易に想像できます。

 もう一つは月経異常です。通常3カ月以上、月経がない状態を無月経といいます。無月経の状態が続くと閉経後と同じ状態になるため、骨粗しょう症を生じます。月経がないと、女性ホルモンのエストロゲンの分泌が少なくなります。骨形成を進め、骨吸収を抑える作用があるエストロゲンが減ることで、骨の吸収が活発になり骨がもろくなります。

 なぜ女性アスリートが無月経になるのでしょうか? 良い成績をあげなければいけない、といった身体的・精神的ストレスも影響しているでしょうが、ここでも十分な栄養が取れていないことが挙げられます。運動で消費するエネルギー量に対して、食事などによるエネルギー摂取量が少ないと、脳から卵巣を刺激するホルモン分泌が低下し、月経異常を来すことが知られています。

 スポーツ医学の分野では、十分な栄養が取れていない状態を「利用可能エネルギーの不足」と呼んでいます。この①利用可能エネルギーの不足②無月経③骨粗しょう症を女性アスリートの3主徴(Female Athlete Triad=FAT)=図=と呼んでいます。

 女性アスリートがスポーツで好成績をあげるためには、練習だけでなく、食生活や月経周期にも気を配り、FATを生じないことが大切です。

(朝日大学保健医療学部教授)