整形外科医 今泉佳宣

 日本における死亡原因の上位三つを知っていますか? 2015年の厚生労働省の報告によると、3位は肺炎で、2位は心臓疾患です。そして1位は悪性新生物、いわゆるがんです。医学の進歩により、がんの治療成績も向上しているのですが、昔も今も恐ろしい病気であることに変わりはありません。

 がんの治療を難しくする要因の一つが転移です。転移とは、初めにがんのできた部位(臓器)と違うところに、がん細胞がすみついてしまう状態を言います。転移を生じやすい部位は肺、肝臓、脳そして骨です。がんが骨に転移した場合、整形外科医は内科など他の科の医師と協力して治療にあたります。

 骨への転移の多いがんは乳がん、肺がん、前立腺がんや多発性骨髄腫などが挙げられます。胃がんや大腸がんといった消化器系のがん、頭頸部(とうけいぶ)のがんは比較的少なく、肝臓がんや腎臓がんはその中間とされています。

 一般的に骨に転移する部位として多いのは脊椎、骨盤、股関節(大腿骨(だいたいこつ))、肩関節(上腕骨)です。がんが骨へ転移すれば、必ず痛みがあると思われがちですが、骨へ転移してもがんが小さければ痛みはありません。

 骨へ転移したがんが見つかるパターンには、二通りあります。一つは原発巣と言われるもとのがんが診断された状態で、骨への転移がないかどうかを調べて見つかる場合です。もう一つは、腰や背中、あるいは股関節や肩関節に痛みを感じて整形外科を受診した時に、たまたまがんの骨への転移が見つかることがあります。

 後者の場合、患者さんは自らががんを患った状態であることを全く知らないため、医師もがんが骨へ転移していることを、告知すべきかどうかの判断に迷うことがあります。検査で原発巣を診断した後、最終的には骨への転移を告知する場合が多いのですが、その場合には、患者さんの精神状態にもできるだけ配慮します。

 骨に転移したがんの治療は、通常のがん治療と同じです。抗がん剤による化学療法や放射線療法、手術を組み合わせて行います。脊椎に転移して脊髄まひを生じている場合や、大腿骨など下肢の骨に転移して骨折を生じ、歩くことができない場合には、手術療法を優先しますが、手術よりも化学療法や放射線療法が行われることが多いです。患者さんが高齢であったり、多発性に骨への転移を生じている場合には、積極的な治療を諦め、できるだけ痛みなどの苦痛を取り除く、緩和ケアが行われることもあります。

 かつては、がんが骨に転移したら諦めるしかないと言われていました。今でも治療が難しいことには変わりありませんが、適切な治療を行うことで、痛みなどの症状が軽快し、生活の質を改善させることが可能な事例もあります。

(朝日大学村上記念病院教授)