学校のNIEタイムで「面白い記事見つけた」と話す低学年児童=東京都内
新聞に見入り、気になる記事を探す高学年児童=同

日本新聞協会NIEコーディネーター 関口修司

 アメリカ合衆国のIT企業エリート社員の多くがわが子を通わせる学校が、シアトルのウォルドルフ・スクールだ。テレビ番組の一コマである。

 ITエリートが選ぶ学校となれば、最新の設備の中で、デジタルメディアを自由自在に駆使する教育かと思いきや、この学校ではデジタル機器の使用を一切禁止し、協調性と創造性を育てる教育をしている。刃物で作品を彫る子供の横で、先生が「ケガすることで痛みを知る」「生身の経験が大事だ」と説明する。

 とはいえ、この学校は自宅でのスマホなどを週末に15分だけ許可している。デジタルスキルは週15分で十分だということだろうか。小中学生期に必要なのは「五感を使うアナログ的な教育」とのメッセージが伝わる。

 スマホの脳に及ぼす影響が懸念されている。女子高校生のスマホの1日平均使用時間は6・1時間、男子高校生5・4、中学生2・85、小学4~6年生でも2・5時間である(デジタル・アーツ2019)。考えてみてほしい。小・中学校は1年間の総授業時数は1015単位時間。時間に換算すれば、それぞれ761・25時間、821時間となる。小学生を例にとれば、1日2・5時間のスマホ使用は1年で921・5時間となり、年間総授業時間をはるかに超える。

 東北大学の川島隆太教授は、仙台市教育委員会との共同研究で「スマホの使用時間が長いほど学力は低い」「スマホを使い始めると学力は急降下」「特にSNSは脳に害」と述べている。しかし、スマホをやめることは、現状では難しい。ならばどうするか。せめて1日20分、「本と新聞」を読ませたい。「1日20分」とて1年間では小中の国語の総授業時間とほぼ同じ。川島教授は読書時間と学力との相関も調査し、「毎日1時間程度までなら、読書時間が長いほど学力が高い」ことも明らかにしている。要は、適度な読書が学力を上げるのだ。

 あえて「本と新聞」と書いたのには訳がある。文学だけ読んでいたのでは不十分。今求められている読解力は、「実用的な文章」や「写真や図・表、グラフなど」の読み取りなのだ。これらは新聞そのもの。日常から新聞を読んでいれば、真の読解力が身につくはずである。

 さらに川島教授はディスプレイより紙で文字を読む方が脳活性することにも言及している。本や新聞も「紙」の方がより脳を刺激するのだ。少なくとも教育においては、五感を使いながら読むアナログ的な学習が効果的なのである。

 紙の手触りを感じながらページをめくる音が心地よい。ほのかなインクの匂いに癒やされながら、紙面に目を走らせる。目に留まった言葉を口ずさみ、コーヒーを一口飲み、また目を走らせる。大人だって五感を働かせながら読むのが大切だと、しみじみ思う。