中学生にがんの予防や、がん健診の重要性を話す古井秀彦院長=2019年12月、不破郡垂井町役場

 がん教育とはなにかということを最初に説明しましょう。2016年度にがん対策基本法が改正され、一般への啓発活動が盛り込まれるようになりました。これを受けて文部科学省が21年度に中学校で、22年度に高校でがん教育を開始するという計画を立てました。一生のうちにがんにかかる日本人は2人に1人といわれています。また、診断や治療の進歩によってがんは死に直結する病気ではなくなりつつあります。がんという病気はだれにとっても人ごとではないし、がんとともに生きるということも人生における重要な課題になっているのです。

 がん教育のポイントを挙げてみましょう。一つ目は「がんを学ぶ」こと。予防が可能ながんもあり、早期発見で治るがんもありますから、若いうちからがんについて正しい知識をもつことは重要です。二つ目は「がんで学ぶ」ことです。自分や身近な人ががんになったときのことを想像する力を養うことで、命の大切さを学ぶという考え方です。

 文部科学省のプランではがんについて①どのような病気なのか②わが国における現状③種類と経過④予防⑤早期発見とがん検診⑥治療法⑦緩和ケア⑧患者の「生活の質」⑨患者への理解と共生-などを教えることになっています。しかし、どのような内容の授業を行うのかは決まっていません。

 西濃では大垣市と垂井町で、19年度に4校がモデル授業を行いました。この地域では09年度から医師や薬剤師が地域の中学校に出向いて、がんを含めた喫煙の害を「防煙教室」という授業で教え続けてきました。このことが県内でも早いスタートを切ることができた要因になっています。がん教育では保健の先生が行う授業と外部講師が行う授業の両者を組み合わせて、前に述べたような内容を教えます。外部講師は医師だけではなく、がん患者さんにも参加していただきました。

 私が外部講師として参加した垂井町立不破中学校と同北中学校では、授業を受けた生徒たち全員が感想を書いてくれました。これを読むと、自分ががんを予防するためにはどのような健康的な生き方をしてゆくとよいのか、自分や身近な人ががんになったときどのように向き合ってゆくのか、といった問題について正しい知識を吸収できていることがわかります。

 また、がん患者さんの話を聴いて、怖い、かわいそうといったとらえ方がすべてではないこと。がんになっても自分らしさを失わず希望をもって生きるという気持ちと、それを周りの人が理解して寄り添うことの大切さについて想像する力を身に付けようとしているのがうかがえます。

 「がんを学ぶ」「がんで学ぶ」。両方の要素をどのように考えてがん教育を組み立ててゆくか、まだ正解のない難しい問題です。生徒が感じたことを私たちがもう一度感じ直して、本当に重要なことは何かを見つけてゆく。そうしたプロセスを繰り返すことで意義あるものにしてゆきたいと考えています。