「まず教師が体験することが大事」と説く柘植良雄教授=岐阜市柳津町高桑西、岐阜聖徳学園大
教師を目指す学生が少人数で実践論を学ぶ授業=同

 「明日は、何の話をしようか」...。教師時代、授業が終わり子供たちが下校すると、いつも明日の朝の会の「先生のお話」を考えました。義務教育では特に、朝の会でいかに子供を集中させ、学びの雰囲気をつくるかが、その日の子供の学習に大きく影響します。そして、学級の雰囲気は毎朝違うため、時には、お話がゲームになったりもします。

 昭和50年代はインターネットなどない時代ですから、お話のネタ探しは、もっぱら図書館の本や新聞記事、テレビのニュースでした。そして、ネタが決まると内容を詳しく調べ、子供たちの質問に対応できるようにして朝の会に臨んでいました。

 ある年の7月の暑い日に、こんなニュースが流れました。「店先に積んであったコーラ飲料の瓶があちこちで破裂し、けが人が出た」というのです。私は、すぐに飛びつきました。絶好のネタで、理科学習に使わない手はありません。「どうして破裂したの?」「コーラは何から出来ているの?」。子供たちが盛んに質問する様子が目に浮かびます。しかし、事故の詳細はまだ新聞には出ておらず、真相ははっきりしません。以前にも同様の事故があり、瓶はその後改善されていたはずです。

 私は、子供の質問に答えるには、製造会社に聞くしかないと思いました。ところが、いざとなるといろんな心配が頭をよぎり、なかなか電話ができませんでした。「電話で聞くのは失礼ではないか」「電話の問い合わせに、会社が答えてくれるだろうか」「事故を非難しているように思われないか」「学校に迷惑がかかるのではないか」。私は考えたあげく、誤解を受けないようにと口述原稿を作って電話をしました。

 学校名と名前を告げ、理科学習で事故の内容を活用したい旨を伝えました。すると、会社の人は私の心配とは逆に、とても丁寧な口調でコーラ飲料の製造工程から事故原因までを事細かく教えてくれました。

 「低温の水を細かな霧状にして二酸化炭素の中に吹き付け、水滴に二酸化炭素を吸着させて炭酸水を作ります。その炭酸水をシロップと混ぜ合わせ、瓶詰めしたものがコーラ飲料です。吸着の時は高い圧力をかけていませんが、瓶詰めにして室温にすると瓶の中は2~3気圧くらいになる時があります。瓶はもっと高圧に耐えられるように作ってありますが、瓶は使い回しなので、瓶に傷などの亀裂があると破裂することが考えられます」

 私は、会社の人の丁寧な対応のおかげで、自らの疑問を追究する面白さや、解決した時の心地よさを体験できたように思います。

 現代は情報機器の発達で、多くの疑問があっという間に解決できる時代です。しかし、単に知識を得ることで、あたかも自らが体験して解決したかのような気持ちになってしまうことは、とても怖いことです。教師として大切なのは、子供たちに自らの疑問の解決の方法や手順を考えさせ、追究の面白さや解決した心地よさを、いかにして味わわせるかということです。そのためにはまず、教師自身が実際に体を動かし、解決の感動を味わうことでしょう。また、子供と一緒になって疑問を追究していくことだと思います。

 その時の教師は、いわゆるティーチャーではなく、ファシリテーター(集団活動がスムーズに進むよう担当する人)やコーディネーターに徹するべきではないでしょうか。そして、これは職員の共通理解のもと、全ての教育課程で取り組むべきものであると考えています。