山口五平餅名人会の指導を受け、新米を丸めた団子を竹串に刺す児童=中津川市山口、山口小学校
稲刈りに汗を流す児童=同市山口
山口小学校の校長室に飾られている「三智」の書額

◆伝統の味、給食で分かち合う

 岐阜県中津川市山口の山口小学校では、「人の世に三智がある」と言葉を残した郷土の偉人、文豪島崎藤村の教えにならい、総合学習の授業を「三智」と呼んでいる。三智の授業では「自学・交流・体験」を柱に据えて、実際の体験を通じて先人や地域から学ぶ。5年生10人は本年度、「ふるさと山口を学ぶ」のテーマで米作りや郷土の料理「五平餅」について学び、郷土への愛着を育んでいる。

 作家・染織家の山崎斌(あきら)が書いた伝記「藤村の歩める道」で、藤村は「人の世に三智がある。学んで得(う)る智、人と交わって得る智、自らの体験によって得る智がそれである」と説いた。山口小の校長室には長野県旧山口村の旧神坂小学校に掲げてあった三智の書額が置かれ、藤村の精神を受け継いでいる。

 山口小は、山口村が中津川市と合併した2005年以前から総合学習を三智と呼んできた。自ら学んでいく力(自学)、人と関わる力(交流)、学びを自覚する力(体験)を大切にし、各教科の成果を三智の授業で表現する。本年度の三智では3年生が馬籠黎明(れいめい)太鼓、4年生が地域防災、6年生が地域の歴史を学んでいる。

 5年生は6月初旬に学校近くの田んぼで田植えを行い、草刈りをするなど米作りに励んだ。10月には稲刈りをして、五平餅のたれに使うクルミや落花生の収穫も体験し、五平餅の味をつくる地域の農業文化に理解を深めた。今月4、5日には山口五平餅名人会の住民を迎え、地元の伝統的な五平餅の作り方を教わった。三つの団子を刺した五平餅を炭火で上手に焼くための串打ちや、素材のうま味を引き出すたれの作り方を聞くなど、新米収穫を祝い、稲刈りを手伝った人に五平餅を振る舞っていた地元の伝統に触れた。

 鈴木晴也君は「自分たちで育てたお米だったのでおいしかった」、河合諒太君は「茶碗(わん)一杯の米を作るにはすごい時間が要ると分かった。家でまた五平餅を作りたい」と笑顔。全校児童分の五平餅を作って給食の時間に振る舞い、収穫の喜びを分かち合った。名人会代表の園原完一さんは「地元の食文化や名物を学び、大事にしていってほしい」と願う。

 今後はこれまでの学びに理解を深めるため、児童個人でテーマを決めて調べ学習を行い、新聞にまとめる計画。坂井美桜さんは「稲刈りの時に草と稲が混ざって収穫が大変だった。定期的に草刈りをすることが大切だと思った」、加藤ももさんは「団子を回しながら串を刺さないと焼く時に団子が回ってうまく焼けないことが分かった」と振り返った上で、後輩たちにも伝えたいと話す。

 石井照久校長は「地元の良さは地域を出た時に気付くもの。山口に住む時からふるさとの良さ、地域の温かみを感じて羽ばたいてほしい」と期待する。