男性の左胸部を上下方向に圧迫して撮影したマンモグラフィー。乳頭の下にがんが出現している(矢印の先の白い部分)

乳腺外科医 長尾育子氏

 今日は男性乳がんのお話です。乳がんといえば女性の病気というイメージがありますが、男性も乳がんにかかることがあります。今回は「男性でも乳がんにかかることがある」「簡単な自己チェックで早期発見できる」ということをお伝えします。

 2018年に国内で乳がんと診断された数は9万4319人で、そのうち男性が661人と報告されています。男性乳がんの数は全乳がんの数のうち0・5~1%とされ、男性の千人に1人が乳がんにかかるとされています。女性乳がんに比べると男性乳がんはまれな病気であるといえます。私が診察した男性乳がんの方からも「まさか男が乳がんになるとは思っていなかった」という声が聞かれました。

 男性乳がんの好発年齢は60~70代です。近親者(親や兄弟、姉妹、子、祖父母など、性別は問わない)に乳がんになった人がいる場合には、発症リスクが高い場合があるので注意が必要です。他に、過度な胸部への放射線照射や、肝硬変など他疾患の原因で体内のエストロゲンホルモン量が増加することが危険因子となるといわれています。

 男性乳がんの好発部位は乳頭乳輪のすぐ下の部分です。最も多い症状は、乳輪部の皮膚の下の硬いしこり(痛みがないことが多い)です。他に、乳頭から血が出る、乳頭乳輪部の皮膚の頑固なただれや潰瘍、わき(腋窩(えきか))にしこりがみられることもあります。

 診断のきっかけとして最も多いのは、乳輪部のしこりの自覚です。また、最近は他の病気の診療中に施行されたCTやPET-CT(陽電子放出断層撮影)検査で、偶然に乳がんを疑う腫瘤(りゅう)が指摘され、それがきっかけで診断されるケースもあります。

 男性乳がんの診療は基本的には女性乳がんと同じです。検査ではマンモグラフィーと超音波検査を行い、針生検で病理検査を行います。病期に応じて、手術治療、薬物治療(ホルモン療法、抗がん剤治療、抗Her2療法など)、放射線治療を組み合わせて治療を進めます。男性乳がんは予後が悪いといわれることもありますが、一般的に男性乳がんが進行してから発見されることが多いためにイメージが悪くなっているのだと考えられます。

 男性も乳がんになります。乳輪部にしこりはないか、わきにしこりはないかなど、先述した症状をもう一度確認の上、月に1回程度の自己チェックが男性乳がんの早期発見につながります。

(県総合医療センター乳腺外科部長)