放射線治療医 田中修氏

 今日は8月3日、ハサミの日です。美容家の故山野愛子氏が、「針供養」にならって「ハサミ供養」を提唱したことに由来します。と言いつつも放射線治療はメスもハサミも使いません。今回は最近の放射線治療のさらなる進化について記したいと思います。

 表にありますように、がんの種類によって照射する回数も放射線の量(線量)も違います。それは放射線が効きやすい臓器(組織)と効きにくい臓器があるからです。放射線の単位はグレイといいます。福島原発事故の時によく使われたシーベルトとほぼ同じ単位になります。

 この連載の2021年11月24日付の記事で紹介したピンポイント照射という技術があります。これは3センチぐらいまでの小さいがん(肺がん、肝臓がん、前立腺がん)なら、メスを入れることなく、4回(4日)くらいの治療で根治できる方法です(放射線量は1回当たり10グレイ)。この治療法は確立しつつあり、標準治療の位置付けになっています。しかしこのピンポイント照射は小さい腫瘍しか対象にならず、早期がんしか対応ができません。

 今回紹介するのは最近、標準治療となりつつある短期間照射です。放射線治療の面倒なことの一つに通院日数が多いことが挙げられます。そのため、1回に当てる放射線の量を従来の放射線治療より多くして、照射回数を減らすのがこの方法です。

 放射線治療の世界共通の考え方として、1回2グレイを標準線量とします。標準を2グレイに固定することで国家間の臨床試験の成績などを比べることができます。しかしながら、時代とともにできるだけ通院の負担を減らそうとする流れが出てきており、短期間の照射でもこれまでの照射と変わらないという臨床試験のデータが出てくるようになりました。そこで、1回に当てる放射線の量を2グレイから約3グレイに増やした上で、回数を減らす方法が採られるようになりました。これにより、早期乳がんは25回から16回へ、早期前立腺がんは38回から20回へと、これまでの半分くらいの通院で治療ができるようになりました。

 ただし、岐阜県内においては短期間照射をやっている施設とやっていない施設があります。当院では原則早期がんに対しては短期間照射を提案しております。放射線治療科の先生に相談してみると良いでしょう。

(朝日大学病院放射線治療科准教授)