東京大の入学式の記事を読み、性差別が生まれる原因や解決策を話し合う1年生
校舎の廊下には、複数社の新聞を置いて社会の情報を得やすい環境を整えている=いずれも高山市三福寺町、県立斐太高校

 新聞記事をヒントに自分たちが暮らす地域社会の課題を探り、解決策を提案する-。2018~19年度のNIE実践校、高山市の県立斐太高校は、17年度から県の指定を受けているスーパーグローバルハイスクール(SGH)の活動に関連させてNIEを実践。学校生活の中だけでは得られにくい国内外、県内外、地域のタイムリーな情報を新聞から入手し、視野の広い学びにつなげている。

 「どうして人間は差別をするの?」「人間だけじゃなく、あらゆる動物が差別をするってインターネットには書いてある」「やっぱり差別は無くせないの?」

 6月中旬、新学習指導要領を受けて設けた1年生の「総合的な探究の時間」。スマートフォンを辞書代わりに使って生徒が読み込んでいたのは、性差別の課題を投げ掛けた新聞記事。今年4月の東京大の入学式で社会学者の上野千鶴子・同大名誉教授が、東京医科大の入試で明らかになった女性差別などを例に「頑張っても、公正に報われない社会が待っている」などと呼び掛けたことを伝えた記事だ。

 1年生の夏休み前は新聞に触れる導入時期。生徒は記事の重要な語句を抜き出し、意味を調べて自分の考えをまとめ、グループごとに解決策を話し合った。授業を終えた1年生の長瀨惠一さん(15)は「大学の入学式の話なんて、普通は大学の新入生しか聞けない。その情報を共有できるのは新聞をはじめとするメディアのおかげ」と話し、世の中の動きを捉え学びを深める機会を喜ぶ。

 SGHの活動と関連させた同校のNIEは1、2年生が実践している。SGHは地域活性化とコミュニケーション能力育成の2本柱のプログラムからなり、特に地域活性化には「地域が抱える課題の発見」が組み込まれている。学校がある高山市は、訪日外国人ら多くの観光客が訪れるグローバルな地域であると同時に、少子高齢化が進むローカルな地域でもある。生徒は、身近な高山を舞台に地域社会が抱える課題を新聞記事から探り、解決策を考えていく。

 NIE1年目の昨年度は2年生(現3年生)が、自転車を活用した観光振興策や、災害が起きた時の外国人観光客の支援策などを提案。観光振興策は乗鞍岳などの北アルプスに自転車用コースを設けて新たな観光客を呼び込むアイデア。関市の取り組みを新聞記事で知り、参考にした。

 外国人観光客の支援策に取り組んだ経緯はこうだ。観光地の防災をテーマに調べていた時、北海道胆振(いぶり)東部地震が発生。被害を新聞などで目にし、現地で起きた問題を北海道新聞社などに電話やメールで取材。正確な情報が伝わらず、避難所にたどり着けなかった外国人観光客がいたことを知り、浮き彫りになった課題を高山に当てはめて、災害時に求められる対応を提案した。

 2年目の実践は、夏休みまでに1年生は新聞を活用した情報収集の方法を学び、2年生は新聞を読み込んで地域課題を探る。テーマを設定した後、夏休みから調査や研究に取り掛かり、考察を深める。さらに、年間を通して週1回程度、新聞記事の要約と感想をまとめる「ニューズレポート」を作成。校内には地域課題に関連のある記事を掲示したり、複数社の新聞を置いたりして社会の情報を得やすい環境も整えている。

 NIE担当の日比野恭一教諭は「情報収集の手段として新聞は有効。地域が異なっても共通する課題は多く、ほかの地域のことでも当事者意識を持って新聞を読める力を身に付けられるようにしたい」と話す。