アイデア具材が詰まったパンを販売する生徒たち=加茂郡川辺町中川辺、町役場駐車場
具材のアイデアを発表する生徒たち=加茂郡川辺町中川辺、川辺中学校

地元店協力、18種商品化 まつり会場で完売

 「いらっしゃいませ」、「ありがとうございました」―。11月、加茂郡川辺町で開かれた「川辺ふれ愛まつり」の会場で、具材のアイデアを出したパンを来場者たちに売り込む地元の川辺中学校2年生の元気な声が飛び交った。取り組みを通して地域の支えやお互いを認め合うことの喜びも実感でき、生徒自身に社会の一人としての自覚が芽生え始めている。

 同校では「自ら学ぶ、共に歩む、たくましく生きる」を教育目標に、生徒の自立力と共生力、自己表現力を育んでいる。パンの具材開発と販売は、総合的な学習のキャリア教育の一環。2年生100人が今年9月から起業家学習として模擬会社を設立。模擬会社の設立は初めての試みだったが、坂井伸生校長は「生徒自ら道を切り開く、主体的な力を持ってもらいたい」との思いを振り返る。

 地元で人気の具材パンを製造販売している「まるパンばーば」の協力で実現した。店主の神農明秀さんは「元気な地域づくりには、これからを担う子どもたちを守ることが大事」と、引き受けた理由を語る。直径10センチほどの丸いパンで包む具材を、妻の南見子さんとこれまで約460種類考案してきた。明秀さんは「手間の掛かることをきちんとした商品に磨き上げることという、ものづくりに携わる職人の本分ややりがいを伝えたかった」と語る。

 生徒たちは18班に分かれて検討。マーケティングリサーチなどに取り組み、各班が校内審査会で熱のこもったプレゼンテーションを行った。地元特産のシイタケを使ったチャーハンやピビンバキムチなど、斬新なアイデアの"スパイス"が効いた具材ばかり。当初は「商品化は1種類」という取り決めだったが、「生徒たちの思いが詰まったパン。優劣は付けられない」との神農さん夫婦の取り計らいで、18種類全ての商品化が決まった。

 パンは2日間で各日432個を販売。初日は雨に見舞われたが約35分、2日目はわずか約12分で完売。話題を聞きつけた町民らが行列をつくった。「達成感だけでなく、仕事一つ一つに意味があることに気づけた」と、社長を務めた松野涼君(14)。イラスト制作や陳列、接客など、普段の授業では気付けなかった"特技"を生徒同士で見つけ合えた。「一人一人の知らなかった発想力や実行力に驚いた。どれだけ自分から取り組みに関われたかということの大切さも分かった」と、大きな収穫を得た。

 指導案を考えた学年主任の橋本奈美教諭は「生徒それぞれが自分にしかできないことを見つけて取り組んでもらうことで、自己肯定感につながった」と、販売後に人との関わり方が苦手だったり将来の目標を持てずにいたりする生徒と周囲に変化が生まれたという。

 「いろんな人の力を借りることの大切さが分かった」「人と接する安心感や温かみを感じた」と語った生徒たち。3年では「地域に貢献する」をテーマに福祉や献身を学ぶという。橋本教諭は「大きな収穫が還元されることに期待したい」。