どの面にどんな内容の記事が載っているのかを確認する生徒たち=高山市下岡本町、飛騨高山高校
廊下に設けられた閲覧コーナーには、その日の朝刊5紙が並べられている=同

廊下で朝刊5紙読み比べ

 2016、17年度のNIE(教育に新聞を)実践校、高山市の県立飛騨高山高校(滝村一彦校長、生徒1086人)は05年に高山高と斐太農林高が統合、斐太高校通信制が移管されて誕生した県内最大規模の高校。岡本キャンパス(同市下岡本町)と山田キャンパス(同市山田町)があり、全日制909人、定時制91人、通信制86人が学ぶ。実践初年度は「多くの新聞に親しむ」を目標に、朝学習の時間や公民、商業、家庭科で新聞を活用、2年目はさらに「生きる力を育む実践を深化させたい」という。

 4月13日、全日制3年生の総合選択「政治経済」の本年度初の授業が行われた。3年生は、学科の枠を超えて自分の興味・関心に応じて約20科目から2科目を選ぶことができ、本年度は11人が「政治経済」を選択した。

 授業の冒頭、NIE実践代表者でもある櫛田(くしだ)尚人教諭(34)は「世の中を知ることは生きる力になる」と語り、"今を伝える新聞"で学びを深めた昨年度の活動も紹介した。

 選挙権年齢が18歳に引き下げられ、初めて選挙に臨む生徒もいた昨夏の参院選では、投票日翌日の朝刊1面を見比べ、当選者の紹介などが地元紙と全国紙で異なることにも気付いた。また、気になる記事をスクラップし、注目した理由を発表し合い、読み手の捉え方の多様さを知った。

 この日の授業では生徒一人一人に新聞を配り、どの面にどんな内容の記事が載っているのかを皆で確認した。

 さらに、昨年度の3年生が行った実践にも取り組んだ。今年1月下旬にトランプ米大統領がメキシコ国境の壁建設を指示する大統領令に署名する見通しになった記事をもとに▽不法移民の問題点▽トランプ氏は日本に何を求めているか▽大統領令とは-などの設問に答え、記事の内容を読み解いた。「その後、壁建設はどうなったのだろう」。生徒たちは世の中の"今"が気になり始めた。

 現在、教科書では「議会制民主主義と世界の政治体制」を学んでおり、新聞で韓国やフランス大統領選の関連記事を読んで、「教科書での学び」は世の中(世界)と密接につながっていることも実感している。

 実践校の指定を受けた初年度は「模索の1年だった」と櫛田教諭。全日制だけでも普通科、農業科(園芸科学科、生物生産科、環境科学科)、商業科(情報処理科、ビジネス科)、生活産業科(生活文化科)と幅広く、全校統一の目標で取り組むのは難しい。

 昨秋、新聞を気軽に読める環境づくりとして、生徒が頻繁に行き交う廊下にその日の朝刊5紙を並べ、読み比べができるスペースを設けた。通行時に足を止め、記事を読む生徒も徐々に増え、「これだけたくさんの朝刊を並べて読むのは初めてで楽しい」と新1年生。「日米関係に関心がある。日本の経済はどうなるのか。今後の記事に注目したい」と話した。

 櫛田教諭は「記事を読んで社会の今を知り、意見を記すことで未来を考える実践は、生きる力を育むことにつながっていく」と言う。「テストや日頃の様子だけでは気付けなかった力を輝かせる生徒がいる一方、考えを発表することが苦手と気付いた生徒もいて、新聞で生徒たちの新たな一面を知ることもできた」と実践を振り返る。授業に活用できる記事かどうかを考えながら新聞を見るようにもなった。生徒と共に取り組む新聞活用に向け、今後は、実践する教諭仲間を増やし、▽学校の今を伝える「生徒会新聞」の発行▽図書館に「NIEコーナー」を設置-などを目標に掲げている。