「私を褒めて! って言うようにしたの」

 ある休日の昼下がり、10年ぶりに会った友人は満ち足りた笑顔でそう言った。「ほら、あや子も私も長女じゃん。つい我慢しちゃうし、気づくと甘え下手になっちゃうんだよね。だから周りに自分から、私を褒めて! って言うようにしたの」

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(撮影・三品鐘)

 そう、私も甘えるのはめっぽう苦手だ。子供の頃から、親に欲しいものを聞かれる機会があっても好意に甘えて素直に答えられず、ギリギリになってわがままか威おどしのように欲しいものを要求したり、褒められても「何か裏があるんじゃないか」「本当にそう思っているんだろうか」と疑心暗鬼で気分が暗くなったり。自分に厳しく、完璧主義、自立心旺盛と言えば聞こえがいいが、正直にいうと人を頼ったり上手に寄りかかったりするのが怖くて怖くて仕方がなかったというところ。「お姉ちゃんだから我慢しなさい」「お姉ちゃんだから妹や弟に譲りなさい」。そんな言葉を浴びさせられた結果、甘え下手になってしまった読者もたくさんいるだろう。

 そんな私たちも、30歳を超えてようやく甘えられるようになった。きちんとしなければ、我慢しなければ、何かしてあげなければ、という呪縛から抜けて、「ちょっと今日は怠けたっていいよね」「これしてあげるからあの人にはあれやって欲しいな」「あの人のためにここまでできたからさ、恥ずかしいけど褒めてもらおう」。そんなふうに思えるようになったのだ。

 この境地に至るまではめっぽう難しかった。甘えたいと思えば自然に過不足なく甘えられるのかと思うと、とんでもない。人に甘えられる柔軟な心は、自立心と怠け心のコラボレーション、あるいはネゴシエーション。やるときはやる、でも、ここまでできたら、ちょっと私、褒められたっていいよね、そんなやりとりを心の中で繰り返す。さあ、今日も仕事頑張ったし、コンビニでご褒美アイスを買ってこよう。今日くらい、ハーゲンダッツでもいいよね。自分で自分を甘やかすのは、心の中にお気に入りのブランケットを持つことに似ている。それにくるまって、また明日の夜も自分をヨシヨシできるようたっぷり充電するのだ。


 岐阜市出身の歌人野口あや子さんによる、エッセー「身にあまるものたちへ」の連載。短歌の領域にとどまらず、音楽と融合した朗読ライブ、身体表現を試みた写真歌集の出版など多角的な活動に取り組む野口さんが、独自の感性で身辺をとらえて言葉を紡ぐ。写真家三品鐘さんの写真で、その作品世界を広げる。

 のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。

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